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生命科学の研究者のブログ

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「STAP細胞作製に成功した」とは何を意味するか

研究者Aがいたとする。

研究者Aは手に培養細胞が入ったシャーレを持っている。

研究者Aは言う。
「この細胞は、体のどんな種類の細胞にも分化できる魔法のような細胞です。」

本当だろうか。そんな魔法のような細胞があれば、どんな病気も治せるかもしれない。研究者Aの言うことがもし本当だったらすごいことだ。あなたは研究者Aの言うことが本当かどうか何とかして確かめたいと思うだろう。

しかし、研究者Aが手に持っているのは培養液が入ったひとつのシャーレに過ぎず、細胞の存在は顕微鏡を覗きでもしない限り確認することができない。そもそも顕微鏡を覗いた所で、その細胞がどんな種類にも分化できるということをどうやって確かめればいいのだろうか。細胞が話すわけでもないし、"万能細胞"と標識が掲げられているわけでもない。



研究者Aが正しいかどうか確かめるためには実験が必要だ。科学者・研究者は「この細胞は体のどんな種類の細胞にも分化できる」ということを示すために、何通りもの異なる方法を使って実験を行う。さらにその何通りもの実験方法それぞれに再現性があることを確認する。そうやってたくさんの実験を重ね、これだけのデータがあれば「この細胞は体のどんな種類の細胞にも分化できる」と主張しても構わないなと判断した時に、データを論文として投稿する。

論文は査読者の審査を受け、時に改訂が行われる。科学雑誌が論文を掲載に値すると判断したら、その論文は雑誌に掲載され、世界の研究者の目に触れることになる。

この時、論文を発表した研究者は、研究者でない一般の人々に自らの研究を分かりやすく説明するために、「体のどんな種類の細胞にも分化することができる魔法のような細胞を見つけた」とプレスリリースする。一般の人はそのプレスリリースを見て「魔法のような細胞が見つかったのか!それはすごい!」と反応する。

しかし、このような新しい発見に対する研究者の受け取り方は、一般人のそれとは異なる。研究者が論文を読む時は、何よりもその論文の図(実験結果)を重視する。なぜなら論文とは実験結果を発表するものであり、タイトルや要旨、背景などの本文はあくまで実験結果やそれらから導かれる尤もらしい結論を説明するために付随するものだ。

一般向けのプレスリリースは論文の結論を強調する。しかし実際の論文の意義としては実験結果の報告が主で、結論は著者が実験結果に付随させたただの解釈なのだ。

ここに研究成果に対する研究者と一般人の受け取り方の齟齬が生じていると僕は考える。

研究者が一般人に魔法のような細胞を見つけました!」という時、それをより正確に表現すると魔法のような細胞の存在を示唆する一連の実験結果が得られました!」ということを意味する。しかし、後者の回りくどい言い方は研究に馴染みの無い人に取っては分かりづらいので、普通は前者の言い方で済ませる。

一つの例を見てみよう。
山中伸弥先生と高橋和利先生が2006年に発表したマウスのiPS細胞作製の論文だ。iPS細胞はそれまでの生物学の常識を覆すまさに魔法のような細胞だった。

Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell. 2006 Aug 25;126(4):663-76. Epub 2006 Aug 10.

この論文には7つのFigure (図)がある。それぞれのFigureでどんな実験をしているのか簡単に説明すると、

Figure 1. 細胞に多能性遺伝子群を導入するとES細胞様に変化することを示した実験
Figure 2. 多能性遺伝子群の中でも4つの遺伝子がFigure 1の現象に必要十分であることを示した実験(山中因子
Figure 3. 山中因子で作製した細胞の遺伝子発現を調べた実験
Figure 4. 山中因子で作製した細胞の遺伝子発現を包括的に調べた実験
Figure 5. 山中因子で作製した細胞の奇形種(テラトーマ)形成能や試験管の中での分化能を調べた実験
Figure 6. 山中因子で作製した細胞をマウスの胚盤胞に注入し、個体発生に寄与できるか調べた実験
Figure 7. 山中因子で作製した細胞の生化学的、遺伝学的実験

これだけの、7つの別々の実験結果を報告した上で、「この細胞はどんな種類の細胞にも分化できる」ということを結論付けている。ニュースを見た人はiPS細胞ができたということにしか注視しないかもしれないが、iPS細胞ができたというのは実は数々の実験結果を総合した解釈だ。iPS細胞は発表後すぐに別の研究者によって再現され、今では世界中の研究室で使われる必須なツールとなっているので、発表当時の解釈は正しかったということになるが、論文によっては実験結果から導かれる解釈が間違っていたり、実験結果に穴があったりして、後にその論文の内容が覆されるということが多々ある。


昨今世間を騒がせているSTAP細胞についても、「STAP細胞は存在するのか、しないのか」という点に注目する方が大勢いるが、実際の問題はそう単純ではない。STAP細胞も多くの実験結果の積み重ねの上に得られた解釈だった。どんな実験があったかというと、

■Oct4-GFPマウスの細胞を酸処理すると緑色の蛍光が発することを示す実験
■緑色の蛍光を発した細胞にTCR再構成がみられることを示す実験
■上記実験で緑色の蛍光を発した細胞が多能性マーカーを高発現していることを示す実験
■酸処理した細胞が奇形種(テラトーマ)形成能や試験管の中での分化能を有することを示す実験
■酸処理した細胞を胚盤胞に注入することで個体発生に寄与できることを示す実験

などの実験があった。小保方さんが会見で「STAP細胞作製に200回成功しました」と言ったり、若山教授がインタビューで「自らの手でSTAP細胞の作製に成功しました。」と言う時、それらは実際には「上記いずれかの実験でSTAP細胞の存在を示唆する結果が得られた」ということを意味している。そして、論文の内容についての様々な疑義が明らかになり、論文が撤回されて論文の結論の後ろ盾が全て消えた現在、「上記いずれかの実験での成功」はすなわち「STAP細胞の存在」を意味しない

研究に馴染みの無い人は、若山教授がインタビューで自分とその学生が「自らの手でSTAP細胞作製に成功した」と語っているのを見て、なんだ若山氏もSTAP細胞を作製しているではないかと思うかもしれない。しかし緑色の蛍光の自家蛍光疑惑や、ES細胞混入疑惑が生じている現在、彼らが当時行った実験でそれらの疑惑と無縁であったことを証明できない限り、彼らがSTAP細胞の存在を示唆する実験結果を得たという事実は何の意味も持たない。一部の人は若山教授は何故過去に自らの手でSTAP細胞を作製したことを強調しないのかと疑問に思っているが、このような理由により過去のたった一度の成功を重要視していないからだと考えられる。

理研が現在行っている再現実験はSTAP論文に対して向けられた様々な疑義に答え、実際にSTAP細胞が存在したのかどうか確かめるために行われている。もしそこでもう一度STAP細胞の存在を示唆する実験結果が得られれば先の論文の結論が正しかった可能性を意味するし、そのような実験結果が得られなかったとなれば、STAP細胞は過去には存在せず、間違った実験結果解釈で論文を出してしまったということになる。

研究・科学の世界では、その世界にいないと分からないルールが結構ある。研究の目的の一つに社会への還元がある以上、一般の方への分かりやすい科学の説明は必要だし、そのために研究成果に本来存在する一定の情報が失われてしまうのは仕方のないことではある。しかし、社会現象となったSTAP問題で、科学の言葉を理解しないばかりに一部の研究者に対して不当な批判が向けられているのが最近目に余ると感じたのでこのエントリーを書いた。


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STAP細胞を信じない5つの理由

今日4月14日、理研ユニットリーダーの小保方晴子氏が弁護士を通じて「4月9日の記者会見に関する補充説明」と題する文書を発表した。

4月9日の記者会見に関する補充説明・全文

僕はこの文書を読んで、少なからず違和感を覚えた。小保方氏はどうやら降りかかる疑惑に対して徹底抗戦するようだ。彼女にはそうする権利があるので、それを批判するつもりはない。違和感はおそらく、4月9日の記者会見以降この問題が完全に科学の議論から離れて当事者の地位と名誉を守るための法廷問題になっていることから来るものだろう。

小保方氏がいくら声高に「STAP細胞はある。200回以上成功した。」と主張しても、彼女はそれらに生じている疑惑に対して何ら科学的な説明や証拠を示していない。科学的な説明や証拠となるデータを示せないのなら、これはもうただの喧嘩で、科学ではない。それでいて今日の文書による補足の「言い訳」発表を行うとは、彼女の科学者としての誠意はどこにあるのか。

このブログではあくまで科学の議論を行いたい。過去の投稿を読んでいただければわかるが、僕は当初STAP細胞は本当なんだと信じ切っていた。しかし、様々な事実が明らかになった現在、STAP細胞は存在しないと思っている。以下に僕がSTAP現象を信じない理由を記す。これらの疑問は多くの研究者が同じように感じていると思っている。



1.未だに「STAP現象」を再現できた研究者がいない
STAP論文の発表は1月29日だ。発表から2ヵ月以上経った今でも、誰も「STAP現象」の再現に成功したとの報告をしない。逆に、再現実験を試みたが失敗したとの報告はたくさんある。例えばDr. Knoepflerによる追試報告サイト。これまでに11件の報告があり、STAP現象を再現した報告は無い。また、Nature News独自の取材により、世界の有名な10ヶ所の幹細胞研究室で再現が取れないことが分かっている。他にもResearchGateボストングローブの記事にも追試失敗が報告されている。一部で酸等のストレス処理後にOct4の発現上昇を確認したとの報告があるが、Oct4の発現だけではSTAP現象を再現したとは言えない。STAPは日本語にすると「刺激惹起性多能性獲得」だ。Oct4の発現だけではその細胞が多能性を持つことを証明したことにはならない。

当初理研のプレスリリースでは、STAP細胞はiPS細胞よりも簡単に作製できると謳っていた。本当にiPS細胞より簡単に作製できるなら、現在iPS細胞を使って実験している多くの研究者は喜んで簡単な方に切り替えるだろう。だから、上に明らかになっているよりもはるかに多くの研究者がSTAPの方法を試したはずだ。にもかかわらず、未だに誰も成功したと声を上げない。これはSTAP細胞が存在しないからに他ならないのでは?


2.詳細なプロトコール発表後も実験が再現されない
2月の中旬以降、インターネット上で追試失敗の報告が相次いだとき、理研は「STAP細胞作製にはコツが必要」と主張し、そのコツを共有するために3月5日に詳細版のプロトコールを発表した。さらにハーバード大のバカンティグループも独自のプロトコールを発表した。これらの新しいプロトコールも世界の研究室で試されているであろうことは、ResearchGateボストングローブの記事からも見て取れる。

それにも関わらず、誰も成功しない。詳細版のプロトコールにコツが載っているのではなかったのか。それでいて、今日発表された文書では、STAP細胞作製にはさらにコツがあり、それは特許の関係で公表できないなどと言っている。科学論文では、それを読んだ第3者が実験を再現できるように記述することは誰もが知っているルールだ。しかも、STAP現象に関してはすでに国際特許が出願済みであり、特許の関係でプロトコールが公表できないという言い訳は通用しない。一体どのプロトコールで再現できるのか。




3.STAP論文の著者らは自家蛍光を区別できていないのではないか
Dr. Knoepflerのブログ追試報告サイトで度々あった報告として、酸処理後の細胞が発した光は自家蛍光であったという報告がある。

自家蛍光とは何かを少し解説すると、目的の蛍光分子に依存しないような蛍光のことだ。STAP論文で著者らは「Oct4-GFPマウス」という遺伝子改変マウスを使っている。このマウスの細胞においては、Oct4遺伝子が発現されると同時にGFPが出るようになっている。著者らはこのGFPのシグナルを頼りにSTAP細胞の判定をしている。しかし、細胞は様々な条件下でGFPの有り無しに関わらず蛍光を発することがある。このようなGFP等の蛍光分子によらず細胞が自動的に発する蛍光を自家蛍光と言う。

自家蛍光は実験結果を誤って解釈する原因になることがよくある。そのため特に今回のような微妙な結果の解釈の時は、論文において「このシグナルは自家蛍光ではない」と分かるようなデータの提示をする。その提示の方法はいくつかあるが、代表的なものは以下のようなものだ。Dr. KnoepflerブログにおけるJun Seita氏のゲストポストも参考になる。

・Oct4-GFPの改変遺伝子を持ってない野生型のマウスの細胞を全く同じプロトコールで調整し、両者を比べることでOct4-GFP遺伝子特異的なシグナルであることを示す

・蛍光顕微鏡なら、緑のチャネルだけでなく赤のチャネルの画像も同時に提示し、緑のチャネル特異的なシグナルであることを示す。(自家蛍光は緑から赤にかけて広範な蛍光スペクトルを取ることが多い。関学の関先生の例が分かりやすい。)

・フローサイトメトリーなら、GFPのチャネルと同時にPEのチャネルのパラメータで縦横に展開してプロットを示し、対角線に生じる自家蛍光群に対してGFP側にシグナルが出ることを示す。(追試報告サイトの"Sasha wrote on 2/12/14"に出ているデータの出し方がまさにそう)

5・6年前とかの論文でも、明らかに自家蛍光と思われるデータによって書かれている論文はよく見かける。最近発表される論文でも稀に見るが、さすがに蛍光を用いた実験に経験値が積まれているのか少なくなっている印象だ。それは上記のようなノウハウが広く共有されつつあるからだろう。しかし、キメラマウスに関するもの以外のほとんどのデータが小保方氏によって取得されたというSTAP論文は、普通のNature論文ではまず見られないミスが数多くある。竹市センター長が「小保方氏は未熟な研究者」と会見で言ったが、果たして上記のような実験のノウハウを含めた教育を小保方氏はきちんと受けてきているのだろうか。

例えばLetterのExtended Data Figure 5gでは、コンペンセーションというフローサイトメトリーで最も基本的な処理が行われずにデータが提示されている。このような未処理画像を論文に載せる小保方さんに「自家蛍光かどうかを見分ける」という発想がそもそもあったのかというのは大きな疑問だ。なぜならそういう発想があれば上に書いたような方法でデータの提示をするから。4月9日の会見で小保方さんは「これらが自家蛍光ではないということも確認していて・・」と言い切ったが、いったいどのような方法で確認していたのか。既に論文に発表した生データは公表しても差し支えないだろうから、ぜひとも生データを公開していただきたい。





4.緑色に光った細胞は死んだ細胞ではないのか
上の主張と関係するのだが、ある種の死んだ細胞は自家蛍光を発することがある。ここで著者らによって公開された細胞がリアルタイムで緑色の蛍光を発する動画を見てみよう。



良く見ると矢印で示された細胞が緑色の光を発する前に、綺麗な円形だったのが収縮していびつな形になり、同時に細胞の内容物のようなものが噴出しているのが見て取れると思う。以前はもっと広角で撮られた動画で、緑に光った細胞が片っ端から貪食細胞に食べられる動画もあったのだが、今見つけられない。理研はその動画を消したのだろうか?(追記)YouTubeではなくてNatureのサイトにあった。

緑に光った細胞が貪食細胞に食べられている動画

貪食細胞は健康な細胞は決して食べない。死んだ細胞や体内のゴミを食べる。死んだ細胞は細胞表面に"eat me signal"という特徴的な分子を出し、それを貪食細胞が認識して食べる。貪食細胞に食べられているということは死んだ細胞ではないのか?死んだ細胞に多能性があるのだろうか。



5.なぜ若山教授の手元にあるSTAP幹細胞の系統が違ったのか
3月後半のニュースで、若山教授の手元にあるSTAP幹細胞を第三者研究機関に解析に出したところ、小保方さんから129系統の細胞であると渡された細胞は実際は他の系統のものだったという報道があった。どこかでマウスの系統が入れ替わっている。今日発表された文書で小保方氏は、STAP幹細胞は若山教授によって樹立されたものであり、小保方氏の作為によって系統が入れ替わったとされるのは残念だと述べた。意訳するとこの件に関しては小保方氏に非は無く若山教授の責任であるとの意味にも取れるだろう。しかし、STAP幹細胞はSTAP細胞から誘導されるものであり、STAP細胞を作ったのは小保方氏だ。若山教授がたった10株かそこらしかないSTAP幹細胞を取り違えたりするだろうか?





本当はこれら5つに加えてkaho氏の主張もあるのだが、これは正式な論文等として発表されるのを待つことにしよう。小保方氏を含めた著者らには、これらの疑問に対して是非とも科学的な反論を示していただきたい。


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STAP騒動の行く末(時系列まとめあり)

前回の投稿で若山教授のインタビューの和訳を投稿してから大分時間が経っているが、この間にSTAP細胞に対して持っていた期待はほぼ消失し、大きな失望へと変わった。

とりあえず、これまでの経緯を時系列にそってまとめてみようと思う。



1月29日夜
Natureでの2本の論文(Article, Letter)公開に合わせ、理研が大々的にプレスリリースを行う。国内外のメディアがこぞって報道する。成果は驚きと称賛をもって迎えられ、関係者や分野の著名人もソーシャルメディアを通して小保方氏に称賛を送る。

科学とは関係ない小保方氏の人柄に焦点を当てた報道が過熱する。


2月5日
Pubpeer内のコメントでArticleFig.1iにおける不適切な処理が発見される。


2月7日
京大の山中教授が報道ステーションに出演し、STAP細胞とiPS細胞比較報道の誤りを説明する。


2月10日頃
当初からSTAPに関する記事をブログに投稿していたカリフォルニア大学デイヴィス校の幹細胞生物学者Dr. KnoepflerがSTAP実験追試の報告サイトを立ち上げる。次々と再現失敗の報告が投稿される。


2月13日頃
2011年に発表された小保方氏が筆頭著者の論文で、画像の使い回しが見つかる。
Letterの二つの異なる実験の画像にある胎盤の類似が指摘される。
これらの疑惑が世界変動展望氏やJuuichiJigen氏によってまとめられ、急速に拡散し、疑惑が広く知られるようになる。

理研・Natureがそれぞれ疑惑の指摘を受けて調査を開始する。


2月17日
Nature newsの記者独自の取材により、世界の10つの有名研究室で再現が取れないこと、共著者である若山教授も現在は再現ができないことが明らかになる

この頃からArticleやLetterの図における不自然な点が次々と報告される。

疑念が高まるのを見かねてか、理研が海外メディアに対して詳細なプロトコールを公開することを明言する。


2月26日
ArticleのMethodに剽窃(コピペ)が見つかる


2月27日
Dr. Knoepflerが若山教授へのインタビューを掲載する。


3月3日
分子生物学会がSTAP論文に対して声明を発表する。


3月5日
理研が突如詳細版の手順を発表する。そこでSTAP-SCにはTCR再構成が無かったという論文の主張と矛盾するような事実が明らかになる

STAP細胞の作製が論文発表後初めて小保方氏らによって再現されたと理研が発表

理研内部の人物であると自称するkaho氏がSTAP細胞の非実在についてと題する一連の投稿を始める。


3月9日
JuuichiJigen氏により、Articleに小保方氏の博士論文からの画像使い回しが発覚する。このデータはSTAP細胞の多能性を示す重要なデータであり、主張の根幹が疑われ始める。この時点でSTAPの存在を信じる人は少数派になる。

以後小保方氏の博士論文中に剽窃や画像盗用が次々と見つかる。


3月10日
若山教授がデータに確信を持てなくなったとして、著者らに論文撤回を呼びかける。同時にSTAP-SCの検証を第3者研究機関に委託することを発表。
kaho氏のSTAP細胞の非実在について#5で、STAP細胞とES細胞がほぼ同一の細胞である可能性(STAP細胞はES細胞のコンタミネーションの結果である可能性)が指摘される。


3月11日
理研がSTAP論文の取り下げを視野に入れて検討していることを発表する。
共著者である理研の笹井氏が上原賞の授賞式に出席。


3月13日
理研内のSTAP論文共著者全員(小保方氏含め)が論文取り下げに同意したとの報道。
ハーバード大のバカンティ教授は取り下げに反対。


3月14日
WSJが小保方氏から「(次々と剽窃・盗用が見つかっている)博士論文は下書き」と主張するメールを受け取ったと報じる。

理研がSTAP論文疑惑調査の中間発表を4時間に渡り敢行毎日:一問一答)。悪意のある捏造だったかの決定は先送り。竹市センター長「小保方氏は未熟な研究者」


3月15日頃から
小保方氏の博論の査読委員だった早稲田の教授が指導した他の博士号取得者の博論から次々とコピペ・盗用が見つかる。
小保方氏が早稲田の教員に博士論文の撤回を申し出たとの報道。


3月18日
理研が再現実験に3か月、まとめに1年かかるとの見通しを発表。
週刊誌によるゴシップ報道が過熱。


3月21日
ハーバード大のバカンティグループが、論文とは異なる独自のプロトコールを発表。クレジットも無く、たったの4ページで詳細とは決して言えない内容に批判が殺到。

←今ここ!!


こうやってまとめてみると、まさに激動の1か月半だった言える。話題には事欠かなかったが、最終的に失望でもって事態が収束に向かっているのは、大変残念に感じる。

これだけSTAPが注目を浴びた理由は簡単だ。それが本当なら世紀の大発見だったから。iPSの技術を用いてすでに再生医療の分野は発展してきているが、STAPの技術が確立されるなら再生医療の発展がより強固なものになるように思われたから。これらのことは僕が論文発表直後に書いた記事にも書かれている。どれだけ今回の発見に期待していたか、そしてどれだけ踊らされていたかの参考になると思うのでこれらの記事も残しておきたい。下に関連投稿としてリンクを貼るので興味のある方は飛んでみると良い。

後になって考えてみると、このような手放しで科学の発見を称賛するのは研究者としては失格なのだが、このようなこともあるのだなと肝に銘じて今後は気を付けるようにしたい。発表直後に著名な研究者も含めて発見を称賛していた根拠はちゃんとあり、一つは論文のFigureを見ると主張がちゃんと証明されているように見えること。(今になって見ると怪しい点が結構ある。当時気づけなかったことを自分に戒めておきたい。)もう一つは、共著者に一流の研究者が名を連ねていたこと。笹井氏は上原賞を受賞するほどその実績が広く認められているし、若山教授も同様だ。僕は笹井氏の講演を聞いたことは無いのだが、若山教授は一度講演を拝聴したことがあり、その時の印象からはとてもデータを捏造するような人には思えなかった。そういうこともあって、僕はこの発見を本当なんだろうと信頼していたし、多くの同業者もそうだったろう。

論文内における不自然な画像が明らかになっていく過程でも、この発見が持つ意義を重く見て信じたい気持ちがあった。それが日が経つにつれ、追試失敗の報告が増えて理研のプレスリリースは嘘っぱちだったことが明らかになり、博論からの画像転用が明らかになった時点で期待の気持ちは失望へと変わった。

極めつけはkaho氏によるChIP-seq・inputの解析データを目にしたことだ(STAP細胞の非実在について#5)。もちろん現段階ではこれはネット上の匿名の投稿に過ぎないし、その主張の正しさを自ら確かめる能力は自分には無い。しかし、若山教授がキメラマウス作製に用いた細胞がSTAPではなくてコンタミしたES細胞だったと仮定すると様々な疑問点が説明できる。

まだ調査の結果が出ていないし、断言することはできない。しかし、これまで明らかになった数多くの事実を考慮して、現段階で"僕が"考える尤もらしい騒動のストーリーとしては、論文のデータの多くは小保方氏の未熟さに起因する勘違いか、もしくは故意の捏造であり、現状のプロトコールで酸処理された細胞には多能性も全能性も無い、というところだろう。

何故こんなことになってしまったのだろうか。この発見が世紀の大発見として世間を騒がすことは容易に想像がついただろうに、論文の共著者たちは都合良く出てくるデータに疑念を持つことは無かったのだろうか。

仮にこの騒動が彼女の捏造により引き起こされたとして、彼女は一体何を求めていたのだろうか。捏造をすれば他のグループで再現が取れずに問題になることは誰でも分かることだ。偽りの成果によってどれだけ多くの人々が期待をし、どれだけ多くの研究者のリソースが無駄に割かれるかを彼女は分かっていたのだろうか。物事が確定していない現時点でこういうことは書くべきではないのかもしれない。


この騒動がもたらしたものとして注目すべきこともある。理研は今回のプレスリリースで何を思ったか研究とは関係ない彼女の個性を全面的に押し出す広告戦略を取った。その戦略は良くも悪くも成功し、STAPは国民的関心となった。これは果たして科学の成果を発表するプレスリリースとして適切だったのかという議論が巻き起こっている。科学と一般市民をつなぐ科学コミュニケーションはどうあるべきか、今後も議論されていくだろう。

また、インターネットを通じた情報共有が今回の騒動に大きな役割を果たした。Dr. Knoepflerのブログを始めとして、pubpeerや2ch等で当初から積極的にデータが議論されており、不正が見つかればtwitterやFacebookを介して全世界的に一気に拡散した。インターネットが無かったら、STAPを再現するために多くの研究者の貴重なリソースが莫大に割かれていたところだろう。科学コミュニティも新時代に入ったと感じる。



差し当たり現状のまとめと私見を記した。続報があればまた記事にしようと思う。


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[STAP細胞] 専門家による若山教授へのロングインタビュー(2/27)全訳

以前も紹介したアメリカの幹細胞生物学者、Dr.Knoepflerのブログで、STAP細胞に関して若山教授にロングインタビューを行っていた。

この件に関して継続して批評を行ってきた専門家によるインタビューとして、実に質問しづらいことも聞いている。貴重な記事だったので日本語に全訳した。

元記事:Interview with Dr. Teru Wakayama on STAP stem cells

以下訳________________________________


STAP幹細胞に関する若山博士へのインタビュー


私は若山照彦博士(知人からはテルと呼ばれている)にSTAP幹細胞の状況に関するQ&Aに答えてくれるかどうか尋ねた。

テルはキメリズムに関して記述し、Nature letterとして発表されたSTAP幹細胞の論文の責任著者だが、Nature articleとして発表され、STAP幹細胞の作製に関して記述したもう一方の論文では責任著者ではない。

テルは親切にも招待に同意してくれた。彼は直接的で時にタフと思われるような質問にも率直に答えてくれた。彼はまた、STAPの今後について理にかなった計画も示してくれた。どうもありがとう、テル。

彼の回答は、彼の科学者もしくは一個人としての偉大な名声を反映しているように思える。テルは幹細胞分野で真に善良な研究者だ。テルはまさに私が呼ぶところの"mensch"(すばらしい特性を持つ人の意)だ。私は、STAP幹細胞の再現ができるかどうか1年間待つというテルの提案を全面的に支持する。

以下にインタビューを掲載する

1.バカンティ研究室と若山研究室の間におけるSTAP幹細胞の共同研究はどのようにして始まったのですか?なぜ彼らと協力することを決心したのですか?この研究の始まりについてもっと詳しく教えて下さい。

テル:小島博士(バカンティ研究室)が私にe-mailで連絡してきて、キメラの作製を手伝ってくれとお願いしてきました。その時点では、そのプロジェクトは到底不可能に見えました。だから私は要請を受諾しました。私はそのような不可能な実験が好きですから。


2.バカンティ博士や小保方博士と最近話しましたか?会話はどんな感じでしたか?彼らと連絡が取れていない場合は、なぜ取れないのですか?

テル:バカンティ博士とは話してないです。

小保方博士とは話しました。しかし、日本で主に問題となっているのは再現性ではなく、画像やバンドのミスです。現在理研と外部の調査団が問題を調べています。でも、彼女の研究室ではSTAP細胞を作製できると彼女は言っていました。


3.現時点でSTAP細胞に対するあなたの自信はどの程度のものですか?より心配になっていますか?

テル:私が理研を去る前、私は脾臓からSTAP細胞を作ることに成功しました。でも一度だけです。その時は小保方博士がよく指導してくれました。

今は数人の知人(日本ではない)が部分的な成功(Octの発現のみ)をe-mailで知らせてくれています。だから、私は一年以内に誰かがSTAP細胞の作製を発表するだろうと信じています。


4.私は大抵の人と同様にSTAPに関するマウスでの研究は強固で説得力があると確信しています。あなたは個人的に科学者として世界から一流の評価を得ていますね。一方で人々は特にSTAP細胞それ自体に関して関心があるようです。現在私が最も多く受ける質問は以下の様なものです__STAP細胞がES細胞やiPS細胞の混入の結果である可能性はありますか?__このようなことは起こりえますか?起こりえるとしたらどのような状況でしょうか?

テル:コメントありがとうございます。

私はSTAPからSTAP-SCを複数回樹立しました。混入がその度に起こるなんてことは考えづらいです。さらに、私はSTAP-SCを129B6GFPマウスから樹立しました。その当時、我々はその系統のES細胞を持っていませんでした。

私がSTAP-SCの樹立に成功した時、大元のSTAP細胞はOct4-GFPをよく発現していました。この状況ではSTAP-SCの樹立は胚盤胞からES細胞を樹立するより簡単なんです。

さらに、包括的なmRNA発現データもSTAP-SCがES細胞でないことを示唆しています。



5.あなたはSTAP幹細胞をあなたの研究室では作れないと仰っていました。実験方法の観点から、なぜそのようなことが起こると思いますか?現在と過去との違いは何でしょう?また、あなたは理研にいた時にSTAP細胞の作製に成功したとも言いました。より細かく教えていただけますか?あなたはSTAP誘導の作業を100%自分の手で行ったのですか?繰り返しになりますが、iPS細胞やES細胞が何らかの理由で混入した可能性はありますか?

テル:私はたった一度だけ小保方博士から指導を受け、そして理研を去りました。

我々が過去に研究室を移動した時、自分自身の技術でさえ再現することがどれだけ困難だったか分かりますか?ハワイからロックフェラーに移った時、私はマウスのクローン作製を再現するのに半年を費やしました。これは私の技術です。自分の技術でさえ多くの時間を要したんです。しかし、STAPの作製法は私の技術ではなく、別の研究室で自分ではない人が見つけた技術です。だから、これを再現するのはさらに難しいことだというのは当然です。

私はそれぞれのステップを小保方博士に監督してもらった上で、100%自分の手で再現しました。ほぼ同様に、私の博士課程の学生もSTAP-SCの樹立に成功しています。

これらの実験の初期段階では、我々はES細胞やiPS細胞を同時に培養していません。後になって、対照群として時にES細胞を同時に培養していました。



6.世界中の多くの人々がSTAP誘導法を試し、失敗によって歯がゆい思いをしています。実験法を記した論文を準備していることは知っていますが、これがどれだけ重要な事柄かを鑑みて、詳細で段階的なプロトコールを今すぐ研究者に向けて公開することを検討してくれませんか?私のブログに投稿してもいいし、科学雑誌への実験法論文の投稿には影響無いでしょう。そうすることにより、人々の助けになると思います。1ヶ月や2ヶ月実験法論文が出るのを待っているのでは遅いんです。

テル:そうですね、現在理研が詳細なプロトコールを発表しようとしているところです。キメラとその樹立に関しては私が担当しました。しかし、キメラとその樹立は一般的なプロトコールで、STAPに特別なものではないんです。なぜなら、ES細胞の場合と同じか、それよりも簡単ですから。残念ながら、今すべての責任は理研にあり、わたしは理研を去った者です。私も知りたいけれど、今は分からないんです。



最後に、私が聞かなかったことで最後に付け加えておきたいことや質問はありますか?もしあるならどうぞ。

テル:私は逃げない。何故なら私の実験結果においては、すべてのことは真実だから。しかし、新しい技術を再現するのは時間が掛かるんです。例えば、最初のクローン動物、ドリーは論文が出るまで一年半もの間再現されませんでした。ヒトのクローンES細胞の論文は未だに再現されていません。だから、少なくとも1年は待って下さい。私はその期間の間に、誰かもしくは私自身が再現に成功すると信じています。

注)彼の要望に従い、テルの回答中の誤植やスペルミスを少し修正した。何故なら英語は彼の第一言語ではないから。しかし、彼の回答の意図が変わるような変更は一切加えていない。


訳終わり________________________________

2014.8.18追記
若山教授が自らの手でSTAP細胞を作製していたことを不思議に思って訪問された方へ
以下のエントリーを参照してください。
「STAP細胞作製に成功した」とは何を意味するか



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STAP論文の疑惑に関するネイチャーの記事(2/17)の全訳

2月17日付けで科学誌Natureのウェブサイトに掲載された、STAP細胞の論文に生じた疑惑に関する記事。おそらく、この疑惑に対して現在のところ最も情報量が多く、新しい事実も書かれていた。この問題に関しては興味を持っている人が多数いるようなので、全部訳してみた。

元の記事
Acid-bath stem-cell study under investigation

以下訳_______________________________

酸浴による幹細胞研究に対する調査

日本の研究機関は不正の告発を受け、話題沸騰の論文に対する調査を開始した。


日本の代表的研究機関は、幹細胞研究の草分け的研究に対する懸念が持ち上がったことを受け、調査を立ち上げた。

神戸に位置する理研(理化学研究所)は、同研究所で働く生物学者小保方晴子氏の仕事に対して持ち上がった不正疑惑について調べていると金曜日に発表した。彼女は先月ネイチャーに発表された2本の論文 ー 成熟した体細胞に酸や細胞膜に対する物理的刺激を与えることで、未成熟な状態にリプログラムする簡単な方法を示した論文 ー の筆頭著者として名声を得た。理研はブログサイトに報告された小保方氏の論文における複製画像の使用や、多数の再現実験失敗を認識している。

未成熟な状態の細胞は体を構成する様々な種類の細胞に分化することができるので、患者特有の細胞を作るための理想的な供給源になると考えられている。それらは病気の発生や薬効評価の研究に使用でき、さらには機能不全を起こした臓器再生のために移植できるかもしれない。成熟した細胞をリプログラミングするための、首尾一貫した直接的な道筋は2006年の仕事で最初に示された。その仕事では4つの遺伝子の導入により、成熟した細胞を未成熟な状態にリプログラミングできることが示され、それらはiPS細胞として知られている。しかしながら、遺伝子導入は細胞の安全性に不確定性をもたらす可能性があり、至ってシンプルにリプログラミングを行えることを示した小保方氏の発表は賞賛を受け、同時に懐疑的な人も幾分か生じさせた。

先週バブピア(PubPeer)などのブログが、ネイチャーに出た2つの論文と2011年に出た以前の論文(成人の組織に幹細胞が存在する可能性を示した論文)における問題を報じ始めたことで、懐疑の念はさらに深くなった。小保方氏が筆頭著者である2011年の論文では、とある幹細胞マーカーの存在を証明するバンドを示した図が反転させられた後に、別の幹細胞マーカーの存在を示す図に転用されていた。その画像の一部分はさらに別の幹細胞マーカーを示す図にも使われていた。同論文には他にも明らかな複製画像がある。

その仕事の責任著者であるハーバード大学医学部の麻酔科医チャールズ・バカンティはネイチャーに対し、先週になっていくつかの"画像の混同"を知ったと話した。彼は既にジャーナルに連絡し、訂正を申請している。「それは確実にうっかりミスだったようで、他のテータや結論、もしくは論文のその他の構成要素に影響をあたえるようなものではない」とバカンティは話す。

最近ネイチャーに発表された2本の小保方氏が責任著者である論文(バカンティは両論文の共著者であり、片方の責任著者である)における問題もまた画像に関係する。一方の論文では遺伝子解析の結果を記した最初の図の中の一部の図が切り接ぎされているようだ。もう一方の論文では、別々の実験の図として使われている2つの胎盤の画像が極めて似通っているように見える。

山梨県に位置する山梨大学に在籍し、クローニングのスペシャリストである若山照彦は、両論文の共著者であり、胎盤の写真のほとんどを撮影した。彼は2つの画像が似通っていることを認めた上で、たぶん単純な混同であろうと話す。若山氏は論文の作成中に理研から在籍を移しており、百枚以上の画像を小保方氏に送ったので、どれを使うべきか混乱したのだろうと語る。彼は現在問題を調査中だと話した。

小保方氏の最新の実験結果の再現が困難なことも懐疑の念を増強させた。ネイチャーのアンケートに回答した10人の著名な幹細胞研究者のうち、誰一人として再現に成功していない。幹細胞研究分野の研究者から実験結果報告を募集しているブログでは、8件の失敗が報告されている。しかし、これらの試みの多くは小保方氏が使用した細胞種を使っていない。

一部の研究者はまだ問題視をしていない。北京の動物学研究所に在籍し、クローニングの専門家であるQi Zhouは、酸処理後にほとんどのマウスの細胞は死んでしまったと話す。「実験系の構築はコツがいるんだ。経験豊富な研究室にとっては簡単な実験でも、部外者にとっては極端に難しくなることがあるから、我々の研究室の技術による再現性を元にして発見が本当かどうかはコメントしないよ」とZhouは語る。

イスラエルのレホボトに位置するワイツマン科学研究所の幹細胞生物学者、ヤコブ・ハンナは「新しい発見をふいにしないように注意深くならなければいけない」と話す。一方で彼は発見に対して「かなり懸念を持っていて、懐疑的」だ。彼は諦める前に約2ヶ月間は挑戦することを計画している。

プロトコールが単に複雑なのかもしれない。というのは、若山氏でさえも実験結果の再現に苦労しているからだ。彼と彼の研究室の学生は論文発表の前に、小保方氏からよく指導を受けたこともあり、独立して実験の再現に成功していた。しかし、彼が山梨に移ってからは一度も運に恵まれていない。「単に酸を加えるとだけ聞くと、簡単な技術なように思えるけれども、そんなに簡単じゃないんだ」と彼は話した。

若山氏は、彼が独立して小保方氏の実験結果の再現に成功したことから、この技術が本当であることを確信している。彼はさらに、新たに受精した胚を除き、小保方氏によって作られた細胞が胎盤などの組織を形成できる唯一のものであることから、細胞が別のものに置き換えられていた可能性はありえないと念を押した。「私が自分で実験して見つけたんだ。実験結果は絶対に真実だ」と彼は話す。

何人かの科学者は著者らにより詳細なプロトコールを求めて連絡を取っているが、返事は得られていない。北京大学の幹細胞生物学者であるHongkui Dengは、「すぐに詳細なプロトコールを発表する」と言われたと語る。バカンティは問題なく実験を再現できるとし、小保方氏に"混乱を招きかねない変動を避けるために"プロトコールを発表させるようだ。

小保方氏はネイチャーのニュースチームからの質問に答えていない。

雑誌ネイチャーを出版するネイチャーパブリッシンググループの代表者は、「ネイチャーも事態を認識しており、調査中だ」と語った。

訳終わり_______________________________


STAP細胞を報告した2つの論文の画像に不自然な点が見つかり、再び世間を騒がせ始めたのが先週のことだ。見つかった不自然な画像は、論文の発見について一から覆すような性質のもではないが、特に胎盤画像の類似などは論文の信用を落とすのに十分な"不自然さ"なので、STAPの存在に懐疑的な見方をする人が国内でも増えていた。さらに、追試の報告サイトで多くの報告がSTAP細胞の作製に失敗していることが事態に追い打ちをかけていた(2月18日現在、STAP細胞作製の成功を示唆する報告が一報だけある)。

あらためてNatureのこの記事をじっくり読んでみると、どうやらSTAP細胞作製のためには相当のコツがいるようだ。共著者の若山教授でさえ、現在は実験の再現に苦労しているという事実は驚きだ。STAP細胞は発表当時、簡単に作成できて再生医療に多くのものをもたらす発見として注目されたが、実験が他所で再現できないようでは始まらない。小保方氏らには早急に詳細なプロトコールを公開してもらいたい。

それとは別に、画像の不自然さについては説明が必要だろう。

STAP細胞について気にかけている人(僕も含めて)は、先週から動向を見て一喜一憂しているかもしれないが、この記事の若山先生の話を読んで見ても分かるように、論文のすべてが嘘であったという話は考えづらいと思う。詳細なプロトコールの発表があるのか、それを元に独立した研究室で再現ができるのか、1ヶ月2ヶ月単位で様子を見なければ答えは出ないだろう。

一方で、当初の報道内容に多くの語弊が含まれていたということはおそらく確かで、それはこの件に関してブログを書いている僕も反省しなくてはいけないし、報道機関も反省しなくてはいけないことだと思う。

今後もこの件には注目していきたい。

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