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生命科学の研究者のブログ

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[小説] 「幕が上がる」平田オリザ

幕が上がる (講談社文庫) 平田オリザ(著)

”私たちの創った、この舞台こそが、高校生の現実だ”

とある田舎の高校の弱小演劇部に、かつて学生演劇の女王と呼ばれた新任の顧問が現れる。新顧問の指導によって部員たちは演劇について理解を深め、メキメキと腕を上げていき、いつしか県大会よりも上のブロック大会を目指すようになる。高校生が抱える将来に対する漠然とした不安・苛立ちに演劇を通して向き合い、そして自らが熱中できるものを見つけていく、そんな物語。

やる気はあるのに何故だか成果は出ない。そんな状態から新しい顧問の指導によって世界がパッと開けていく様子がよく描かれている。部長の女の子が終始語り手なのだが、その語り口がすごく淡白で一見すると感情の起伏が薄いような印象も受けるけれど、逆にそれによって物語での出来事がテンポ良く平易に語られてイメージを膨らましやすくする効果があるのかもしれない。クライマックスに向けた部の緊張感は手に取るように伝わってくるし、そんな中に挟まれる高校生の他愛もない会話が青春を感じさせる。平田オリザはこの小説が処女作らしいが、ベテラン劇作家ならではというか、ベテラン劇作家だから書ける話なのだろう。

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[小説] 「ティファニーで朝食を」 カポーティ


ティファニーで朝食を (新潮文庫) トルーマン カポーティ (著), 村上 春樹 (翻訳)

この小説の語り手は駆け出しの小説家である「僕」だが、この小説は紛れもなくニューヨークの社交界で名を馳せる女性、ホリー・ゴライトリーの物語だ。「僕」と同じアパートの階下で暮らすホリーは金持ちの男を周りにはべらせ、いつもパーティーに行ったり部屋でパーティーを開いたりしている。勝手気ままで自由奔放な性格だけど、どこか人懐っこく、情にも厚い。ものすごく美人というわけではないけれど、その魅力ゆえに関わる男達を次から次へと恋に落としてしまう。そんなホリーの生き様が「僕」を通して描かれている。

オードリー・ヘップバーンが主演した同タイトルの映画が有名だが、こちらは小説とは大分雰囲気が異なるようだ。自分はまだ映画は見たことが無いけれども。小説ではホリーという女性がとてつもなく魅力的に描かれていて、多くの読者を作中の男どもと同様にホリーに恋に落とすことで名作として語られて来たのではないかと予想する。

[小説] 「星やどりの声」 朝井リョウ

星やどりの声 (角川文庫)星やどりの声 (角川文庫)
(2014/06/20)
朝井 リョウ

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朝井リョウの凄いと思うところは、登場人物のそれぞれが抱えている悩み・葛藤の結晶としてその感情が内側から溢れてくるような場面の描写が上手く、読む人に凄みを伴って訴えかけてくるところ。そういうシーンは大抵登場人物が泣くシーンなのだけど、この小説を読んでいて毎章のように一緒に泣いてしまった。それから各章で主軸となる語り手が変わるのだけど、視点を変えて各登場人物の内面を一人称で描きつつ、読み進めると様々な断片が繋がっていって最終的に本としてのクライマックスにちゃんと向かわせる構成力にも感嘆する。物語は海辺の町でカフェを営む6人兄弟と母の家族の話。6章あるうちのそれぞれで6人兄弟に順番に焦点を当てていく。家族だとか就活だとか学校だとか恋愛だとか友達だとか兄弟がそれぞれのステージで抱える葛藤を描きつつ、今は亡き父親を巡る物語が発展していく。心温まる話。

同著者の「桐島、部活やめるってよ」も大好きだ。そのメッセージ性も含めてお気に入りの小説。こちらは映画も素晴らしかった。未だの人は読むべし観るべし。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)
(2012/04/20)
朝井 リョウ

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(2013/02/15)
神木隆之介、橋本愛 他

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[小説] 「さらば、夏の光よ」 遠藤周作

さらば、夏の光よ (講談社文庫)さらば、夏の光よ (講談社文庫)
(2013/12/13)
遠藤周作

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"吹雪がおさまったあとの山をあなたは知っているだろうか。山小屋の扉を押しあけてその銀色の世界と向き合う時、私はその眼もくらむような白い拡がりよりは、そこを支配している沈黙にうたれる"

とある大学で講師をしている小説家が、ひょんなきっかけから学生の恋の仲人を務めることになる。一人の学生が同じ大学の綺麗な女の子に恋をし、近づくための試行錯誤を経た結果結ばれる。しかし、実はその男子学生の親友も同じ女性に恋をしていた。小説家は学生たちの時に微笑ましい、時に過酷な青春の一部始終を目撃することとなる。

物語で、思いを寄せる女の子を親友に取られてしまった学生・野呂は、ずんぐりと太っているうえ低身長で、女性たちから「生理的に受け付けない男子」として忌み嫌われている。いくら真面目で優しい性格を持っていても、女性たちの恋愛対象にはなれない。そんな野呂が恋に落ちた時、相手から好かれることが無いと分かっていながら、それでも相手を思う気持ちは捨てられず、相手からの愛を一度でも受けてみたいという葛藤を抱える。幸せに終わるかのように見えた学生たちの青春は、とある出来事により厳しい運命を辿る。

デートを重ねていくうちに積もっていく二人が共有した時間。何気ないやり取りから感じる幸福。自分が愛している人から愛される資格を持ち合わせない苦悩。そばにいて相手を思っていても決して通じ合わない孤独。決して救いや答えがあるわけではないが、青春の日なたと影の側面をスパッと描いていると思う。

[小説] 「潮騒」 三島由紀夫

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(2005/10)
三島 由紀夫

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200ページ弱の短編小説だが、半分くらい読んだあたりから、この心温まるストーリーがどうか悲劇で終わらないでほしいという一心で読み進んだ。三島由紀夫の小説は他にもいくつか読んだことがあるけれど、これまで読んだ小説と一線を画す内容だったので驚いたが、同時にこんな話も書けるのかと三島由紀夫のイメージが変わった。

三重県の歌島(現在の神島)という離島を舞台にし、若い男女の恋を描く青春小説だ。印象的だったのは一人を除いてほぼすべての登場人物が美しく魅力的な側面を兼ね備えていたこと。色事には不器用ながらも真面目で誠実で優しい青年。その青年に思いを寄せる、裕福な家庭に育ちながらも公平で優しく健気な女の子。こっそり青年と会っているのがばれて、親から青年に会うのを禁じられながらも「私の心はあなたのものです」なんてしたためた手紙を毎日書いてよこすとは体中の皮下がむずがゆくなるくらい魅力的。思わずリア充爆発しろ!!!!!!!と現代風に罵りたくなるくらい魅力的。

離島で最新技術から取り残され、一見古風な風習と生活様式を持っているようでも、根幹の部分ではすごく人間的で優しく島民が描かれているのがとりわけ印象に残っている。こういう移りゆく技術や社会と無関係な人々の人間的な部分を離島という舞台を借りて強調したかったのではないかと推測する。

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あぴと

Author: あぴと
生命科学の研究者。ポスドク。東京という街が好きです。
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生命科学、基礎医学、進化生物学、英語、読書、美術、音楽

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