東京BLOG

生命科学の研究者のブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第3の万能細胞:STAP細胞現る 2014年一番の大発見?

今日Natureで理研による2本の論文がオンラインになり、そしてそれに関するプレスリリースが出された。それらは各大手新聞社にも取り上げられ、SNSでも大きな盛り上がりを見せている。非常に重要な発見なのは間違いないので、このブログでも紹介したい。

Natureに発表された、小保方晴子氏らによる2本の論文

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency

理研によるプレスリリース
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見
-細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導-


これに対する各新聞社の記事。タイトルの違いが面白い

日経:理研、万能細胞を短期で作製 iPS細胞より簡単に

読売:第3の万能細胞STAP作製…iPSより簡単に

産経:新型「万能細胞」作製…ES、iPSに続く「STAP」 理研、酸の刺激だけで成功

毎日:新万能細胞:作製に成功 簡単でがん化せず 理研など


マウスの細胞をpH5.7(弱酸性)の液に30分程浸し培養すると、数日であらゆる種類の細胞に分化できる万能細胞になる。iPS細胞と異なり、細胞に遺伝子導入をする必要が無いので、細胞が‘がん化’する可能性を大きく下げられる。しかもiPS細胞よりも高効率で作れる。これは今後の再生医療にとって非常に重要な発見だと思う。

ただし、今回の論文はすべてマウスの細胞によるデータらしい。聞くところによると、このプロジェクトに取り組み始めたのは5年前らしい。5年もの歳月があれば、研究グループはたぶんヒトの細胞でも実験を行うと思うのだが、ヒトのデータがまだ含まれていないということは、もしかしたらヒトの細胞ではまだ実験が上手く行ってないのかもしれない。もしくは、ヒトの細胞で実験を行う際に必要となる煩雑な倫理申請の間に、情報が漏えいすることを恐れてヒトの細胞を使った実験は本当にこれからやるのかもしれない。iPS細胞でも、マウスの論文が出てから、ヒトの論文が出るまで1年くらい掛かったと記憶している。今後に期待だ。

たとえマウス細胞で誘導できたようにヒトの細胞で誘導できなくても、今回の発見がとても重要なことに変わりはない。このようなリプログラミングが何故起こるのかというメカニズム解明が進めば、それをきっかけにさらに新しい方法が見つかるかもしれない。



Nature公式のニュース(英語)に、小保方晴子ユニットリーダーのインタビューがあったので、一部抜粋して書き起こしてみたい。
インタビューの元はここで聞けます。

小保方さん- 例えばニンジンのような植物では、強い外界ストレスに晒された時に、完全に分化した細胞から幹細胞を誘導することができます。私は直感的に、私たちも植物のような機構を持っているのではないかと感じました。

記者- ニンジンをスライスすると、幹細胞が生じる。それであなたは哺乳類でもニンジンのような再生能力があるのではないかと考えたのですね。あなたはこのアイデアを思い付いた時に料理をしていたのですか?

小保方さん- いいえ(笑)、私はこのアイデアを思い付いた時は、お風呂に浸かっていました。

ナレーター - インスピレーションはある意味"不都合な"場所で生じるようです。小保方さんは、物理的に環境へ操作を加えることで、幹細胞を作れるのではないかと考えました。彼女は様々なことを試します。

小保方さん- 私は思いつく限りのことを試しました。例えば、ピペットで細胞を吸ってみたり、細胞を飢えさしてみたりしました。

ナレーター - 最終的に成功したのは「酸」でした。低いpHの溶液が細胞をひるませ、それらを幹細胞の状態へ戻したのです。研究チームはこの細胞をSTAP細胞と名付けました。(STAP: stimulus-triggered acquisition of pluripotency)

(中略)

記者- これは並外れて驚くべき実験結果ですが、あなたの達成したことを人々に説得するのは難しかったですか?

小保方さん- そうですね、私はとてもナイーブだったので、何故誰も私を信じてくれないのか理解できませんでした。さらに、どんなデータで人々を説得できるのかも分かりませんでした。それゆえ、私は他の細胞では決して得ることができないデータを集めようとしました。そしたら、最初の実験から5年もの歳月がかかりました。

ナレーター - 研究者がせっかちであることを非難してはいけません。ただの「酸性」条件だけで(万能細胞を誘導するのに)充分だったのです。





5年かけて、一生懸命積み重ねた実験結果を、こうして大々的に世へ出すことができて、さぞかし安心している所だろう。小保方さん、お疲れ様でした。そして、おめでとうございます。

関連投稿
「STAP細胞作製に成功した」とは何を意味するか
STAP細胞を信じない5つの理由
STAP騒動の行く末(時系列まとめあり)
[STAP細胞] 専門家による若山教授へのロングインタビュー(2/27)全訳
STAP論文の疑惑に関するネイチャーの記事(2/17)の全訳
STAP細胞懐疑派の声
STAP細胞に関するNew York Timesの記事について
STAP細胞関連の情報を読み解く: 科学立国とは?

スポンサーサイト

Twitterアカウント開設しました

BLOG開設して早一年。

今更ですがTwitterのアカウントを開設しました。

良かったらフォローお願いします。

@tokyocicada

イルカ漁・捕鯨は悪なのか?

先日、ケネディ駐日米大使が太地町で行われているイルカ追い込み漁の非人道性について懸念を表明した。

太地町のイルカ追い込み漁に非難の声、ケネディ大使も懸念表明-CNN


そのニュースに対する国内外の反応

国内:ケネディ大使:「イルカ追い込み漁の非人道性を深く懸念」- watch@2チャンネル

海外:
イルカ追い込み漁にケネディ駐日大使も批判ツイート。「日本人は残酷」←「手のひら返し乙」 - 劇訳表示

海外「他国に干渉するな」 ケネディ大使のイルカ漁反対表明にコメント殺到 - パンドラの憂欝

悲報!また、イルカの殺戮が日本で始まるぞ!!CNNが報じるイルカ漁。- ジパング 世界の反応

ついでに日本が行っている捕鯨についての海外の反応
シェパード「日本の捕鯨船団がクジラを殺した事を確認っ(キリッ」 海外「恥を知れ!」「文化だろ!」 - 劇訳表示



太地町のイルカ漁に関して、僕個人としては、合法的な漁を持続可能な形で行っているのだから第3者がとやかく言うことではないと考える。一方で、日本の小さな町の出来事がこれだけ世界的に取り上げられて、それを見た人々から批判の声が上がっているということも事実であり、なぜそのような批判が起こるのかということについて考えてみなくてはいけないとも思う。

太地町のイルカ漁がこんなにも有名になったきっかけは、言うまでもなく映画「The Cove」がアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したからだ。知能が高く、水族館ではかわいらしい姿を見せるイルカが入り江に追い込まれた挙句殺され、海が文字通り血の海となる映像に多くの人が衝撃を受けたのだろう。映画では漁師が槍のようなもので追い込んだイルカを繰り返し刺し、イルカがもがく映像が流れる。その映像は誰が見ても気持ちの良いものではない。

しかしながら、映画で流れた海が血で染まるような漁の方法は現在は行われておらず、より苦痛が軽減されるような絶命の方法を取っているらしい(イルカ追い込み漁-wiki)。ケネディ大使が言う「非人道性」というのはおそらく動物が苦痛を感じるような漁の方法を指して言っていると思われるのだが、それに関しては国際社会の批判もあってか近年改善されているように見える。

上に貼った海外の反応で、僕が理解に苦しむのは次のような批判だ。

イルカは、牛、豚、鳥とは違って、飼育されてないんだよ。野生の動物なんだ。 
野生の動物を、人間が食べるために捕獲するのには俺も反対だ。


・ねぇ、、豚がどのように殺されてるか知ってる?
 牛は??

_彼らは食べられる為に生まれたんだ。。。
 自然のイルカは違う。


牛や豚は人が食べるために飼育されているので殺してもよく、野生のイルカやクジラはそうではないから殺してはいけない。これはいったいどういうことだろう。牛や豚などの家畜にしたって、自分が後々食べらるために殺されることを承知して受け入れているというわけではない。彼らも当然のことながら他の生物と同様に苦痛を感じることができるし、殺されるのが本望のはずがない。

同様の発言は、この手のまとめで必ずと言っていいほど目にするし、反捕鯨のyoutube動画で言われているのも聞いたことがある。これは、牛や豚などの家畜は神から食糧として与えられたものなので、殺して食べても構わないという、キリスト教の宗教観に由来するらしいという分析も目にする。しかし、理性的に考えた時に、イルカやクジラは特別で牛や豚とは違うというのは多くの人にとって納得できる理由ではないだろう。特にそれが、イルカ漁や捕鯨で生計を立ててきた人にとってはなおさらだ。欧米人の宗教観を押し付けられる筋合いは彼らにはない。

「イルカやクジラは知能が高いから殺して食べるべきじゃない」というのも良く見るが、これもおかしな論理だと思う。水族館のショーで高度な芸を見せる姿に親近感を覚えてのことだろうが、知能が高いと苦痛や恐怖が大きいのだろうか?そんなことはないと思う。死への恐怖、傷に対する痛み、これらは生物が生存するために進化のかなり早い段階で獲得された形質だと考えられる。生物は恐怖や苦痛を避けるように行動して、生存率を高めてきた。だから恐怖や苦痛はどんなに知能が低い生物でも感じることのできる感情なのではないかと考えられる。恐怖や苦痛を正確に定量する術が無いので、それを証明することはできないが、我々高等な生物の恐怖・苦悩は偉大で、下等な生物のそれらは大したこと無いから殺しても構わないというのは、到底納得できない。

こうしてイルカ漁や捕鯨の現状を見直してみると、特に国際社会の批判を浴びるような点は無いように思える。捕鯨にしたってIWCに決められた捕獲量の上限を守って行われているわけだし、絶滅危惧種を捕獲しているという批判も当たらない。The Cove以来、「日本人によってかわいらしいイルカやクジラが虐殺されている」と報道すれば、視聴者の感情に訴えかけられる良いニュースとなるので、今回の件のように大きく海外メディアに取り上げられてしまうという不運がある。イルカ漁や捕鯨を続けるのであれば、苦痛の軽減に努めている点・持続可能な捕獲量を守っている点を粘り強く説明していくしかないだろう。

ケネディ大使には是非「非人道性」が具体的にどのようなことを指すのか説明してほしい。

腸内細菌で自閉症が治る?

前回の投稿で自閉症に関する本を紹介したが、ついでに自閉症に関して気になる論文を見つけたので紹介したい。

Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders
Cell, Volume 155, Issue 7, 1451-1463, 05 December 2013. 10.1016/j.cell.2013.11.024

「腸内細菌叢が神経発達障害に伴う行動学的・生理学的異常を調節する」
と題され、昨年12月にCellに発表された、まさに最新の論文だ。
うまく出来るかわからないが、解説してみたい。


腸内細菌叢とは
ヒトの腸管(主に大腸)には、細菌が住んでいる。念のため説明すると、ヒトは真核生物かつ多細胞生物であり、ヒトの個体を形成するすべての細胞は母親の体内で生じた1つの受精卵から生じた細胞である。細菌は原核生物かつ単細胞生物である。つまりヒトの細胞とは似ても似つかない、全く異なる生物が体内に常駐していることになる。このような細菌を共生細菌という。ヒトの個体における全細胞数は60兆個と言われているが、腸の共生細菌もそれと同じくらいの細胞数がいると言われており、その細菌群を総称して腸内細菌叢という。ヒトの体には、免疫によって異物を排除する機能があるが、共生細菌はどういうわけかその異物排除機能から逃れ、体内に住み着くことに成功している(ちなみに腸管は皮膚と同じ上皮であり、外界と面していることになるので、厳密な意味での体内とは異なる)。

最近の研究で、腸内細菌とヒト(宿主)との相互作用が免疫機能に重要な役割を果たすということが分かってきた。例えばとある腸内細菌の一種は、宿主に免疫抑制的な免疫細胞を誘導することが分かり、炎症を抑える効果があることが分かっている。このような知見に基づき、健康なヒトの腸内細菌を移植することで、腸炎を抑える治療も行われ始めている。腸内細菌は現在、その他にも臨床応用の可能性を見越して活発に研究がされている分野である。

腸内細菌wiki



自閉症とは
自閉症について詳しく知りたい人はぜひ前回の投稿で紹介した本を読んでみてほしい。簡単に説明すると、他者とのコミュニケーションに支障をきたすような障害であり、先天性の神経発達障害であるとされている。先天性ということは何らかの遺伝子の異常により引き起こされるのだが、まだその原因となる遺伝子は分かっておらず、おそらく複数の遺伝子異常が原因となるだろうと言われている。原因が分からないので、根本的な治療法が無く、自閉症を持つ人はコミュニケーションに困難を抱えたまま生きていかなければならない。

自閉症wiki



これまでその原因が不明だった自閉症だが、一部の自閉症患者で胃腸障害を併発することが知られていた。そのため、近年腸内細菌叢の役割について理解が進んだことを機に、自閉症と腸内細菌叢の関係について注目されていた。このような背景で発表されたのが今回の論文である。

論文の概要としては以下の通りだ。
著者らはマウスが自閉症様の行動を取るMIAモデルを用い、胃腸障害や腸内細菌叢を調べた。すると、MIAモデルのマウスにおいても、ヒトの自閉症患者が示すような胃腸障害を発症しており、健常マウスとは異なる腸内細菌叢を持っていた。そこで著者らは、ヒトの共生細菌の一種であるB.fragilisという細菌をマウスに投与したところ、胃腸障害が軽減し、さらには自閉症様の行動異常も改善された。B.fragilisの投与によって、異常であったMIAモデルのマウス血清中の代謝産物が通常に戻り、これらの代謝産物が行動異常と関わることが分かった。このような知見から、プロバイオティックに胃腸障害を制御することが、あらたな自閉症の治療となるかもしれない。
ASD.png
画像は論文から転載・日本語を追加


自閉症のマウスモデルで胃腸障害・腸内細菌叢の改変が起きることを発見し、そのマウスにとある腸内細菌を投与すると腸内細菌叢が変化し、自閉症様の行動が治ったということである。

この論文ではマウスの行動が変化した直接的な原因として、血清中の代謝産物を挙げている。つまり、腸内細菌の変化によって、血液中の成分が変化し、おそらくその変化が脳に影響を及ぼしてマウスの行動を変化させたのではないかとしている。このことから、ヒトの自閉症でも腸内細菌に操作を加えることで治療効果を得られるかもしれないと著者らは主張している。

しかしながら、この論文に載っているのはあくまでマウスモデルから得られたデータであり、ヒトでも同様の効果が得られるのかというのはこれから調べられるので、自閉症の新規治療法発見!とするのは時期尚早だ。マウスモデルとヒトでは色々と乖離があり、マウスで得られた結果が必ずヒトでも得られるという保証はどこにもない。

これまで原因の分からなかった自閉症について、腸内細菌叢の異常と発達障害という意外なリンクの可能性が浮上してきていることは、自閉症の原因解明に近づく良い兆候かもしれない。今回の発見が直接的に自閉症の治療に繋がるかは全く未知数だが、自閉症の研究が進み、数年後には自閉症の原因の理解がもっと進んでいればいいなと思う。

「自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって」 ベルトラン・ジョルダン

この本を手にとったきっかけは、友人に勧められたからなのだが、良い勉強になったので感想を記したい。

自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって
(2013/10/09)
ベルトラン・ジョルダン

商品詳細を見る



皆さんは「自閉症」と聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか。「症」という言葉がつくので、当然病気の1つとして分類されるものなのだが、それでは自閉症とはどのような原因によってどのような症状が出るのだろうか。恥ずかしながら、僕はこの本を読むまではこれらのことについてほとんど知識が無く、更には自閉症について誤解をしていた。おそらく皆さまの中にもそのような人は多いのではないかと思っている。本書を読むことによって、自閉症への理解を進めることができたと感じている。

本書は、分子生物学者である著者が、自閉症診断のための遺伝子解析キットを開発しているベンチャー企業・アンテグラジャン社との間で行われた訴訟の顛末を記すことで、遺伝子診断の難しさ、バイオベンチャー企業のあり方について問題提起するものである。明瞭な言葉で分かりやすく記されており、更には用語解説も充実しているので、専門知識が無くても十分に読めると思う。

この本を読む前まで僕が誤解していたことだが、自閉症のような性格やコミュニケーションの障害は遺伝よりも環境因子が大きく影響するという思い込みがあった。しかしながら、本書において著者はまず自閉症は遺伝的要因によって起こる病気であるということを説明しており、これは科学的に証明され、世界的にも受け入れられている事実であるとしている。

とある病気が遺伝によってもしくは環境によって生じるのかを調べるためには、一卵性双生児の有病者を調べれば良い。一卵性双生児は全く同じ遺伝子を持っている。さらに、生後何らかの理由で兄弟が離れ離れになり、一卵性双生児として生まれながらも全く異なる環境で育つ場合がある。このようなケースを調べることで、兄弟間で同様に生じる病気は遺伝要因、兄弟間で一方だけが発症した病気は環境要因である可能性が高いということが分かる。自閉症も一卵性双生児を調べることで、遺伝的要因によって発症し、生育の環境は関係無いということが確かめられている。

このような背景の元で、フランスのとあるベンチャー企業(アンテグラジャン社)が自閉症診断のための遺伝子診断キットを開発しようとしたのが事の発端である。これが著者には到底受け入れられないことだった。

何が問題だったかというと、自閉症の原因遺伝子は未だに不明であり、単一の遺伝子異常ではなく、複数の遺伝子異常が複合的に病気の引き金を引くであろうということが分かっていたからだ。このような病気の性質のため、アンテグラジャン社が開発したキットは、偽陽性(病気が無いのに検査結果が陽性)や偽陰性(病気があるのに検査結果が陰性)が多数生じてしまうキットだった。著者は自閉症のような多数の遺伝的要因により引き起こされる病気に遺伝子診断を用いるリスクを説明し、バイオベンチャーの企業倫理について問題提起を行っている。

自分も科学者の一人として、社会とどう関わっていくか、研究成果をどのように社会に還元していくか考える立場にあるので、本書の内容も非常に興味深かった。遺伝子診断に限らず、食料品や化粧品等の信じ難いデータに基づいた誇大広告は普段から疑問に思っていることである。本書が提起する企業倫理の問題は、利益を追従するあまり消費者を欺いている企業全体にあてはめられる。アンテグラジャン社の診断キットの最大の問題点は、キットの難しい取り扱い方について、消費者に及ぼすであろう影響に対する配慮とその説明が十分になされていないことにある。なぜならこのような説明は製品に対してネガティブな印象を残すからだ。製品化したからにはプロモーションを行って実際に使われなくては意味が無いという思いに対し、消費者に対して嘘はつけないというジレンマがある。科学者はこのような問題を抱える企業の広告に対して、常に監視し、必要に応じて社会に告発する役割がある。

自閉症について興味がある人、またはバイオベンチャーの企業倫理について勉強したい人などにとって、本書は間違いなく役に立つだろう。

スマートなフォンのスマートな使い方

Teens react to smartphones
日常がスマートフォンにいかに毒されているかを表現した動画を見たアメリカの高校生の反応




スマートフォンによってより簡単にハイクオリティな写真や動画が撮れるようになり、しかもそれらをSNSやYouTubeを使って簡単にシェアできるようになった。しかし、それによって人々は人と直に接しているときでもスマートフォンを覗き、目の前で対面している人々とのコミュニケーションをないがしろにしている。ある人は恋人にプロポーズしている時でさえスマートフォンを片手に動画を撮り、ある人はコンサートで目の前で演奏が行われているのに動画撮影に夢中になっている。

例えば、皆で会話している時に、ある人が携帯を見るのに夢中になっていて寂しい思いをするのは誰しも経験があることだろう。自分が携帯をいじる側の時だってあるだろう。しかし、携帯をいじっている側だって、その人なりの優先度があって携帯で行われるコミュニケーションを優先している。対面の人と会話するよりも大事な仕事を携帯で片付けているかもしれないのだ。コミュニケーションが携帯を通して場所を問わずに行われるようになった。コミュニケーションの手段の変遷というのを改めてこの動画で実感したような気がする。

一方でコミュニケーションの中身は今も昔も大して変わっていないんじゃないかとも思う。なぜなら、100年前に書かれた小説でのコミュニケーションを現代の人が読んでもその内容を理解して共感することができるからだ。人々の悩みの種なんてどの時代も大抵は同じで、それは例えば恋だとか不倫だとか借金だとか友人との不仲や親戚との確執だとか殺人だとかで、それは源氏物語の時代から、いやたぶんそのずっと前から変わっていないんじゃないかという気もする。



話は変わるが、僕は未だにガラケーを使っている。なぜかというと、変える理由が思い当たらないから。電池の持ちなど小さいことでガタが来始めてはいるが、別にメールや電話をするのに不便は無いので良いかなと思っている。速度は遅いかもしれないがGPS機能だってあるし。さすがに今の携帯が壊れたら次はスマートフォンかなと思っているが、スマートフォンは月々の代金が7000円近くかかる料金設定をどうにかしてほしいと思う。高すぎ。

[小説] 「半島を出よ」 村上龍

これだけの物語を書き上げるのに、いったいどれくらいの労力が掛かるのだろうか。それはただ受動的に読んでいる立場では決して想像もつかない。この本は小説という形を取りながら、さながら現代日本を批評する新書のようであり、一方で多くの人々の生い立ちを辿っていくドキュメンタリーのようでもある。それらの要素が物語の至る所に散りばめられ、非常に読み応えのある作品になっている。大作だと思う。

設定は2011年の日本(小説が発表されたのは2005年だ)。北朝鮮の反乱軍と名乗る武装ゲリラが突如福岡を占領する。彼らは福岡の人々を人質とし、武力を盾に北朝鮮流の統治を開始する。無能な日本政府は突然の襲来に大した対策を取ることもできず、本州へのテロを防ぐために九州全体を封鎖してしまう。本国から12万人の援軍を呼び込み、本格的な独立を目指そうとする北朝鮮ゲリラと、それに巻き込まれ、対峙する福岡の人々、そして密かに北朝鮮ゲリラの転覆を試みる若者達が描かれる。

物語は多数の章からなり、それぞれの章で別々の登場人物が語り手となる。対峙する双方の主観によって物語を語ることにより、多面的に物を見せると同時に、それが現代社会の問題点を浮き彫りにするような構造になっている。驚いたのは、北朝鮮の兵士も語り手になっている所だ。言語も環境も思想体系も全く異なる国の人物の視点に立って物語を語ること、それがどんなに難しいことかというのは冒頭にも書いたように素人の想像を絶するだろう。村上龍はあとがきで「そんなことができるはずがないと思って書き始めた」と書いているが、北朝鮮の人物がなんと生き生きと書かれていることだろう。素晴らしい。拍手。

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)
(2007/08)
村上 龍

商品詳細を見る


半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)
(2007/08)
村上 龍

商品詳細を見る


Top

HOME

あぴと

Author: あぴと
生命科学の研究者。ポスドク。東京という街が好きです。
興味のあること:
生命科学、基礎医学、進化生物学、英語、読書、美術、音楽

Twitter始めました



mail: tokyocicada☆outlook.jp

学振関連記事のまとめ


にほんブログ村

この人とブロともになる

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。