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生命科学の研究者のブログ

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3.11の記憶

あれからもう2年が経ったなんて上手く信じられなくて、
あの頃のことを昨日のことのように思い出す。

2年前も僕は東京にいて大学院生をやっていて、
決して被災地にいて被災したわけではない。
特段不自由な思いをしたわけではない。

それでも、余震が断続時に続く中、
ふとつけたワンセグに流れてきた、
鉛色の津波が仙台の沿岸部の街を飲み込んで行く映像を見た時の、
衝撃も手に取るように思い出せるし、
物流が止まったせいでスッカラカンになったコンビニの棚とか、
原発事故の現状を告げる暗いニュースに頭を悩ませた
どんよりとした日々は忘れることはないだろう。

原発の事態が深刻化してからは、
本当に頭を悩ませた。
あふれるように右から左から流れてくる情報。
いったいどれが本当の情報なのか。
一時期自分の研究そっちのけで、
放射性物質が人体に与える影響を調べていた。
大学という利点を生かして、原著論文もたくさん読んだ。

その結果、一部の極端な反原発団体が放射能に対して発する言葉は、
妄想の産物だという結論に至った。

一例を挙げてみよう。
3月の終わりころだったろうか、
原発の敷地から事故由来のプルトニウムが検出され、
「猛毒のプルトニウム」という言葉が各大手メディアにも踊った。

今でこそ「プルトニウム」で検索すると冷静な情報が目立っているが、
当時は「猛毒のプルトニウム」という言葉が独り歩きして、
プルトニウムの危険性が殊更に強調され、
それを見た一部の人はパニックに陥っているように見えた。
今でこそ編集されているが、
Wikipediaでも「猛毒のプルトニウム」という言葉によって、
その危険性が強調されていたと記憶している。

僕はプルトニウムが安全だと言いたいのではない。
しかし、プルトニウムが他の放射性物質と比べて、
特に危険だという確たる証拠はいくら調べても見つからなかった。

日本語のWikipediaには載ってないが、
英語版Wikipediaでプルトニウムを調べると、
興味深いことがわかる。

各メディアで強調されている
角砂糖数個分のプルトニウムが何億人も殺すといったような
「猛毒のプルトニウム」という言葉は、
Ralph Naderというアメリカ人によって語られ始めたということが分かる。
この男はアメリカの大統領選挙にも立候補している政治家だ。
医者でも科学者でもない。
さらに調べると、東西で軍拡が繰り広げられていた冷戦の真っただ中で、
Ralph Naderが政治運動として反核運動を繰り広げていたことが分かった。

つまり、Ralph Naderは選挙で票を得るために、
核兵器にも利用されているプルトニウムが、
人体にも猛毒だという恐怖心を民衆に植え付けようとした。

その試みはある意味成功した。
何故なら40年後に日本の大手新聞で大々的に引用されたのだから。

しかし、彼の言葉を引用した新聞社も彼自身も間違っている。
Ralph Naderの反核キャンペーンの後、
いくつもの学術的な論文で彼が強調するプルトニウムの危険性なんて存在しないことが証明されている。

それにもかかわらず、日本のメディアに間違った情報が飛び交ったのは、
Wikipediaやネットの情報をソースもろくに確かめずに記事にする、
記者の科学リテラシーの欠如のために他ならない。


プルトニウムの件は当時氾濫していた間違った情報のほんの一例で、
そのほかにも似たような間違った情報を目にする度に僕は頭を痛めた。

専門的知識のない一般市民がこの間違った情報を目にして、
必要のないパニックを起こすかもしれない。
それなら、正しい知識を与えて無駄な心労を無くしてあげるのが、
科学者の役割ではないのか?

僕は掲示板などで間違った情報を目にすると、
根拠となるソースを挙げて間違いを指摘する書き込みをするようになった。

地味だったが、これが結構大変だった。
誰かに対して「これが正しい情報だ」と言い切るためには、
信頼のおける文献を挙げれば良いが、
どの文献が信頼できるか判断するためには、
その分野における確かな知識が無いといけない。
おかげで震災後の数カ月で放射性物質が人体に与える影響にだいぶ詳しくなった。

それでも、やはり自分ではどうにも判断できないことはあるし、
まだまだ勉強不足を感じる。
震災を経験して、色々な人に勇気をもらったが、
それに対して何もできない自分の無力さを実感した。
いつか自分も社会に対して恩返しできる科学者になりたいと、
心に誓ったのでした。

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Author: あぴと
生命科学の研究者。ポスドク。東京という街が好きです。
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