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イメージが先行することの危険性

前回の投稿でプルトニウムについて書いたが、
誤解を招きたくはないので、もうちょっと詳しく書こうと思う。

プルトニウムは放射性物質である。

放射性物質は放射線を放出する。

放射線は大量に浴びると人体に有害である。

よってプルトニウムも大量に人体に取り込まれたら有害だ。
実際に、過去に動物実験でプルトニウムにより発癌した例もある。
しかし、それはあくまで大量に投与した場合であって、
今の自然界からその量を摂取するのは不可能である。


それでは2011年当時のプルトニウムに対する反応はどんなものだったろうか。
以下は当時日本で最もフォロワーが多かったソフトバンク社長・孫正義のツイートだ。

驚愕!今、TV朝日のニュースで知った。原子力安全保安院は、プルトニュウム漏洩は調査していない事を認めた。「調査不要」との事!半減期が、2.4万年で最も危険なプルトニュウムを調査不要⁉ 何の為の「安全保安院?」
7:00 PM Mar 26th TwitBird iPadから


プルトニウムを「最も危険」と表現している。
この「最も危険」という表現は、
前回の投稿で書いたRalph Naderがプルトニウムに対して用いた典型的な表現だ。

もう一つ、当時色々なネットニュースで見られたプルトニウムに対するQ&Aからの引用を貼る。

Q プルトニウムの特徴は。
A 人体への影響が極めて大きいアルファ線を出し、呼吸などで体内に入ると骨や肺に沈着して、強い発がん性を帯びるため非常に厄介だ。同位体のうち、代表的なプルトニウム239の半減期は約2万4千年と非常に長く、体内に入ると放射線を出し続け、排出されにくい。核分裂を起こし膨大なエネルギーを出すため、核兵器の材料にもなる。


「極めて大きい」「非常に厄介」と言った言葉でその危険性が強調されている。
当時このように「プルトニウムは最も危険な放射性物質」という風潮が一時期広まった。
その後有識者によってその風潮は段々正されていくのだが、
この最初の風潮からプルトニウムに対して「猛毒」というイメージを持った人は結構いるのではないかと思う。
当時のように有名会社の社長や大手メディアにそう言われたらそう信じてしまうのも無理はないと思う。

しかし、放射線の知識がある人なら、
上に引用したプルトニウムの危険性について語った文におかしいところがあることに気づく。

まずプルトニウムの半減期が長いから危険であるように語っている点。
これは明らかな間違いで、反原発団体が扇動する核の危険性に踊らされている。

例えば1gのセシウム137と1gのプルトニウム239があったとする。
前者は半減期約30年、後者は2万4千年だ。
どちらが強い放射線を出すかというと、圧倒的にセシウム137だ。
半減期が長いということは、それだけゆっくり時間をかけて崩壊するということなので、
単位時間当たりの放射線量はその分弱くなる。

プルトニウムが人体に与える影響を議論すると、
最終的に「ホットパーティクル」が存在するかどうかという議論に行きつく。
ホットパーティクルというのは、これも反原発団体が主張する理論なのだが、
肺の中で小さなプルトニウムの粒子が特定の場所に留まり続け、
同じ場所に放射線を出し続けるので、そこで癌が発生するという理論である。
話だけ聞くと、それが起こっても不思議ではないかなと思うし、
尤もらしい説明である。
しかもこれが起こらないということの証明は悪魔の証明なので不可能だ。
したがって、まともな研究者なら「それは絶対に起こらない」なんてことは言えない。

反原発団体は、このことを利用して核に対してネガティブなイメージを扇動する。
しかし、それは人々にネガティブなイメージを植え付けるという目的を持った言論であり、
それは必ずしも科学的な事実を伴っていない。

例えば、ホットパーティクルが存在すると主張するなら、
その証拠や例を挙げる必要がある。
しかし、冷戦時代に軍拡に伴って盛んに行われていたプルトニウムの生体に対する影響を見る実験で、
ホットパーティクルの存在を示す結果は得られていない。

何より、ホットパーティクルの存在を否定する事実がある。
原発事故が起こる前から、
日本の各地の土壌で微量のプルトニウムが検出されているのをご存じだろうか。
日本に限らず、世界の土壌でこのプルトニウムは見られる。
プルトニウムは元々自然界には存在しないにも関わらず、である。
このプルトニウムは60年代までに核保有国で行われていた
大気圏核実験に由来する。
これが何を意味するか。
全国に飛散しているということは、
当時の大気中にプルトニウムの粒子が舞っていたということである。
つまり、当時生きて呼吸をしていた人はもれなくプルトニウムの粒子を吸っている。
もしホットパーティクル理論が正しければ、
その当時生きていた人には特徴的な肺がんが多発するはずだし、
大気圏核実験をしなくなった時期(70年代以降)
に生まれた世代からそのがんが見られなくはずである。
しかし、そんな事実は見られない。

これらのことから、プルトニウムが極微量でも人体に猛毒というのは、
科学的根拠や経験的事実の伴わない事であり、
福島の土壌からごく微量のプルトニウムが検出されたからって、
この世の終わりであるかのように騒ぐのは間違いである。

物事に対するイメージが頭に一度定着してしまうと、
それを変えるのはなかなか難しいことだ。
そのイメージに合うような事実を探したり、
イメージに合うように都合よく物事を解釈してしまいがちである。
しかし、そういう行動は論理的じゃないし、ありのままの事実を見てない。
一種の現実逃避だ。

匿名掲示板などで、人々が放射能に対して意地の張り合いのような言い合いをしてるのを見ると悲しくなる。
相手の意見を真摯に聞いて、間違いがあるなら素直に認めて、
建設的な議論ができるようになれば、
もう少しみんな幸せになるのにと思う。

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