東京BLOG

生命科学の研究者のブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって」 ベルトラン・ジョルダン

この本を手にとったきっかけは、友人に勧められたからなのだが、良い勉強になったので感想を記したい。

自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって自閉症遺伝子 - 見つからない遺伝子をめぐって
(2013/10/09)
ベルトラン・ジョルダン

商品詳細を見る



皆さんは「自閉症」と聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか。「症」という言葉がつくので、当然病気の1つとして分類されるものなのだが、それでは自閉症とはどのような原因によってどのような症状が出るのだろうか。恥ずかしながら、僕はこの本を読むまではこれらのことについてほとんど知識が無く、更には自閉症について誤解をしていた。おそらく皆さまの中にもそのような人は多いのではないかと思っている。本書を読むことによって、自閉症への理解を進めることができたと感じている。

本書は、分子生物学者である著者が、自閉症診断のための遺伝子解析キットを開発しているベンチャー企業・アンテグラジャン社との間で行われた訴訟の顛末を記すことで、遺伝子診断の難しさ、バイオベンチャー企業のあり方について問題提起するものである。明瞭な言葉で分かりやすく記されており、更には用語解説も充実しているので、専門知識が無くても十分に読めると思う。

この本を読む前まで僕が誤解していたことだが、自閉症のような性格やコミュニケーションの障害は遺伝よりも環境因子が大きく影響するという思い込みがあった。しかしながら、本書において著者はまず自閉症は遺伝的要因によって起こる病気であるということを説明しており、これは科学的に証明され、世界的にも受け入れられている事実であるとしている。

とある病気が遺伝によってもしくは環境によって生じるのかを調べるためには、一卵性双生児の有病者を調べれば良い。一卵性双生児は全く同じ遺伝子を持っている。さらに、生後何らかの理由で兄弟が離れ離れになり、一卵性双生児として生まれながらも全く異なる環境で育つ場合がある。このようなケースを調べることで、兄弟間で同様に生じる病気は遺伝要因、兄弟間で一方だけが発症した病気は環境要因である可能性が高いということが分かる。自閉症も一卵性双生児を調べることで、遺伝的要因によって発症し、生育の環境は関係無いということが確かめられている。

このような背景の元で、フランスのとあるベンチャー企業(アンテグラジャン社)が自閉症診断のための遺伝子診断キットを開発しようとしたのが事の発端である。これが著者には到底受け入れられないことだった。

何が問題だったかというと、自閉症の原因遺伝子は未だに不明であり、単一の遺伝子異常ではなく、複数の遺伝子異常が複合的に病気の引き金を引くであろうということが分かっていたからだ。このような病気の性質のため、アンテグラジャン社が開発したキットは、偽陽性(病気が無いのに検査結果が陽性)や偽陰性(病気があるのに検査結果が陰性)が多数生じてしまうキットだった。著者は自閉症のような多数の遺伝的要因により引き起こされる病気に遺伝子診断を用いるリスクを説明し、バイオベンチャーの企業倫理について問題提起を行っている。

自分も科学者の一人として、社会とどう関わっていくか、研究成果をどのように社会に還元していくか考える立場にあるので、本書の内容も非常に興味深かった。遺伝子診断に限らず、食料品や化粧品等の信じ難いデータに基づいた誇大広告は普段から疑問に思っていることである。本書が提起する企業倫理の問題は、利益を追従するあまり消費者を欺いている企業全体にあてはめられる。アンテグラジャン社の診断キットの最大の問題点は、キットの難しい取り扱い方について、消費者に及ぼすであろう影響に対する配慮とその説明が十分になされていないことにある。なぜならこのような説明は製品に対してネガティブな印象を残すからだ。製品化したからにはプロモーションを行って実際に使われなくては意味が無いという思いに対し、消費者に対して嘘はつけないというジレンマがある。科学者はこのような問題を抱える企業の広告に対して、常に監視し、必要に応じて社会に告発する役割がある。

自閉症について興味がある人、またはバイオベンチャーの企業倫理について勉強したい人などにとって、本書は間違いなく役に立つだろう。

スポンサーサイト

« 腸内細菌で自閉症が治る?|Top|スマートなフォンのスマートな使い方 »

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://tokyocicada.blog.fc2.com/tb.php/50-2fb51cf4

Top

HOME

あぴと

Author: あぴと
生命科学の研究者。ポスドク。東京という街が好きです。
興味のあること:
生命科学、基礎医学、進化生物学、英語、読書、美術、音楽

Twitter始めました



mail: tokyocicada☆outlook.jp

学振関連記事のまとめ


にほんブログ村

この人とブロともになる

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。