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腸内細菌で自閉症が治る?

前回の投稿で自閉症に関する本を紹介したが、ついでに自閉症に関して気になる論文を見つけたので紹介したい。

Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders
Cell, Volume 155, Issue 7, 1451-1463, 05 December 2013. 10.1016/j.cell.2013.11.024

「腸内細菌叢が神経発達障害に伴う行動学的・生理学的異常を調節する」
と題され、昨年12月にCellに発表された、まさに最新の論文だ。
うまく出来るかわからないが、解説してみたい。


腸内細菌叢とは
ヒトの腸管(主に大腸)には、細菌が住んでいる。念のため説明すると、ヒトは真核生物かつ多細胞生物であり、ヒトの個体を形成するすべての細胞は母親の体内で生じた1つの受精卵から生じた細胞である。細菌は原核生物かつ単細胞生物である。つまりヒトの細胞とは似ても似つかない、全く異なる生物が体内に常駐していることになる。このような細菌を共生細菌という。ヒトの個体における全細胞数は60兆個と言われているが、腸の共生細菌もそれと同じくらいの細胞数がいると言われており、その細菌群を総称して腸内細菌叢という。ヒトの体には、免疫によって異物を排除する機能があるが、共生細菌はどういうわけかその異物排除機能から逃れ、体内に住み着くことに成功している(ちなみに腸管は皮膚と同じ上皮であり、外界と面していることになるので、厳密な意味での体内とは異なる)。

最近の研究で、腸内細菌とヒト(宿主)との相互作用が免疫機能に重要な役割を果たすということが分かってきた。例えばとある腸内細菌の一種は、宿主に免疫抑制的な免疫細胞を誘導することが分かり、炎症を抑える効果があることが分かっている。このような知見に基づき、健康なヒトの腸内細菌を移植することで、腸炎を抑える治療も行われ始めている。腸内細菌は現在、その他にも臨床応用の可能性を見越して活発に研究がされている分野である。

腸内細菌wiki



自閉症とは
自閉症について詳しく知りたい人はぜひ前回の投稿で紹介した本を読んでみてほしい。簡単に説明すると、他者とのコミュニケーションに支障をきたすような障害であり、先天性の神経発達障害であるとされている。先天性ということは何らかの遺伝子の異常により引き起こされるのだが、まだその原因となる遺伝子は分かっておらず、おそらく複数の遺伝子異常が原因となるだろうと言われている。原因が分からないので、根本的な治療法が無く、自閉症を持つ人はコミュニケーションに困難を抱えたまま生きていかなければならない。

自閉症wiki



これまでその原因が不明だった自閉症だが、一部の自閉症患者で胃腸障害を併発することが知られていた。そのため、近年腸内細菌叢の役割について理解が進んだことを機に、自閉症と腸内細菌叢の関係について注目されていた。このような背景で発表されたのが今回の論文である。

論文の概要としては以下の通りだ。
著者らはマウスが自閉症様の行動を取るMIAモデルを用い、胃腸障害や腸内細菌叢を調べた。すると、MIAモデルのマウスにおいても、ヒトの自閉症患者が示すような胃腸障害を発症しており、健常マウスとは異なる腸内細菌叢を持っていた。そこで著者らは、ヒトの共生細菌の一種であるB.fragilisという細菌をマウスに投与したところ、胃腸障害が軽減し、さらには自閉症様の行動異常も改善された。B.fragilisの投与によって、異常であったMIAモデルのマウス血清中の代謝産物が通常に戻り、これらの代謝産物が行動異常と関わることが分かった。このような知見から、プロバイオティックに胃腸障害を制御することが、あらたな自閉症の治療となるかもしれない。
ASD.png
画像は論文から転載・日本語を追加


自閉症のマウスモデルで胃腸障害・腸内細菌叢の改変が起きることを発見し、そのマウスにとある腸内細菌を投与すると腸内細菌叢が変化し、自閉症様の行動が治ったということである。

この論文ではマウスの行動が変化した直接的な原因として、血清中の代謝産物を挙げている。つまり、腸内細菌の変化によって、血液中の成分が変化し、おそらくその変化が脳に影響を及ぼしてマウスの行動を変化させたのではないかとしている。このことから、ヒトの自閉症でも腸内細菌に操作を加えることで治療効果を得られるかもしれないと著者らは主張している。

しかしながら、この論文に載っているのはあくまでマウスモデルから得られたデータであり、ヒトでも同様の効果が得られるのかというのはこれから調べられるので、自閉症の新規治療法発見!とするのは時期尚早だ。マウスモデルとヒトでは色々と乖離があり、マウスで得られた結果が必ずヒトでも得られるという保証はどこにもない。

これまで原因の分からなかった自閉症について、腸内細菌叢の異常と発達障害という意外なリンクの可能性が浮上してきていることは、自閉症の原因解明に近づく良い兆候かもしれない。今回の発見が直接的に自閉症の治療に繋がるかは全く未知数だが、自閉症の研究が進み、数年後には自閉症の原因の理解がもっと進んでいればいいなと思う。

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