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STAP細胞関連の情報を読み解く: 科学立国とは?

STAP細胞について、興味深い記事を見つけたので紹介したい。

1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文

記事はNPO法人であるAASJ(オール・アバウト・サイエンス・ジャパン)のコンテンツ、科学報道ウォッチで1月30日に公開となったものだ。AASJの代表者で、記事の筆者でもある西川伸一氏は熊本大医学部教授や京大医学系研究科教授、理研グループリーダーなどを歴任し、免疫学や発生学、幹細胞生物学などの分野で第一線の活躍をしてきた研究者だ。定年で研究の現場を退いた後も、このAASJ等を通して精力的に活動を行っている。ちなみに西川氏は小保方晴子氏が現在勤める神戸理研で昨年まで研究を行っており、今回の論文の関係者でもあるらしい。以下気になったところを引用してみたい。

この論文には私も思い出が深い。最初にこの話を聞いたのは仕事でイスラエルに滞在していた約3年前の事で、メールでの依頼に応じて論文のレフェリーコメントにどう答えればいいのかなどボストンのバカンティさんと電話で話をした。その後帰国してから、若山研に寄宿して実験をしていた小保方さんと出会って論文についてアドバイスをした。話を詳しく聞いて研究の内容についてももちろん驚いたが、小保方さんと言う人物にも強い印象を受けた。特に最初の論文のドラフトを読んだ時、自分の気持ちをそのままぶつけた初々しい書き様に、普通の研究者とは違うことを確信した。その時と比べると、今回久しぶりに目にした論文は堂々とした成熟した論文に変わっていた。苦労が実ってよかったと我が事のように思う。

3年前というと2011年で、小保方さんは震災をきっかけに日本に留まり、山梨大の若山教授に協力を仰いだとどこかの記事で見たので、その時期と一致する。その頃には、今回発表された論文の前段階にあたるSTAP細胞の論文が既に投稿されており、論文を評価するレビュアー(レフェリー)から返ってきた(おそらく辛辣な)コメントに対して、どうやって答えればいいかDr. Vacantiから相談を受けたと語っている。

先月に発表されたSTAP細胞に関する2本の論文のうち、1本目の論文は大まかな構造を記すと、

1.酸浴による白血球のリプログラミング

2.リプログラミングされた細胞の培養皿(in vitro)における実験やマウスへの移植実験による特徴づけ

3.キメラマウス作製による多能性の証明

のような構造になっている。このうち、2番目までのデータはおそらくこの時までに揃っていたが、それだけではこの生物学の常識を覆す現象をレビュアーに納得させるには不十分で、小保方さんは若山教授の協力を仰いで更に説得力のあるデータを取ろうとしたのだと予想される。読売新聞による若山教授へのインタビューによると、STAP細胞由来の細胞を持った最初のマウスが生まれたのは2011年の末頃らしいので、おそらく半年以上かけてSTAP細胞を使ったキメラマウス作製に取り組んだのだろう。それから2012から2013年にかけて、多能性・全能性を証明し、2本目の論文との同時投稿という形で、先月発表になったと考えられる。

これだけのことを証明した2本の論文の筆頭著者というだけで、小保方さんの卓越さを証明するには十分だが、西川氏は小保方さんについてさらに"自分の気持ちをそのままぶつけた初々しい書き様に、普通の研究者とは違うことを確信した"とコメントしている。「生物学の歴史を愚弄している」とレビュアーに酷評されてもめげずに信念を貫いて今回の論文を書き上げた、小保方さんの研究者としての資質がここからも読み取れると思う。

西川氏はSTAP細胞発見の驚きについて、専門家として以下のようにコメントしている。

ただ問題は、驚きが論理的な納得に変わらない点だ。おそらくこの点が論文採択までに苦労が強いられた原因だろう(新聞を見ると採択されず泣き明かしたとまで書いてある)。論理的に納得できるようになるには、この現象の背景にあるメカニズムを理解する必要がある。酸や他のストレスでエピジェネティック機構が影響を受ける事は私も想像できる。再現性の高い実験結果である事も十分示せていると思う。しかし、エピジェネティック機構の揺らぎが、なぜ全能性のネットワーク成立に落ち着くのかなど、納得できない点が多い。おそらく体細胞では厳密に押さえられている多能性遺伝子が、酸や様々なストレスで開放され、多能性の転写ネットワーク形成を自然に促すのだろう。

(中略)

何れにしても小保方さんの結果により再認識させられるのは、どの方法でリプログラミングを誘導しようとも、リプログラミング自体が生理的な過程ではないことだ。事実、私たちのゲノムは30億塩基対という膨大な物だ。この30億塩基対のエピジェネティックな状態の細部を思い通りに制御するなど至難の業だ。このため、表面的な転写ネットワークは同じでも、リプログラムのされ方が異なる多様な状態が可能なのだろう。おそらく、今後も様々な状態の全能性・多能性の幹細胞が報告される事だろう。


今回の論文では体細胞を酸に漬けただけで多能性が獲得されるという現象が示されたが、そのメカニズムとしてはまさにブラックボックスだ。西川氏は"リプログラミング自体が生理的な過程ではない"と語っている。"生理的な過程ではない"とはどういうことかというと、我々の体で普段絶対に起こらないということだ。お酢を飲んでも体内でSTAP細胞が誘導されないことからも分かるように、多能性の獲得は普段体の組織の中で厳密にコントロールされ、絶対に起こらないと考えられてきた。そのリプログラミングが、酸浴によるストレスや、おそらく体外に取り出して培養することによって生じる微小環境の変化により生じる。これがどのような機構で生じるか解明することが、今後の再生医療の発展のためにも重要だ。

続いて西川氏は今後の競争について以下のように語っている。

メディアも競争について気になるなら、特許が日本かアメリカかを調べた方がいい。元々この仕事は小保方さんがバカンティ研で一人で始めた研究だ。ハーバードでもプレス発表があった。我が国独自の技術だなどと考えると、ぬか喜びになるかもしれない。もちろん、特許が全てアメリカに握られていたとしても、小保方さんを我が国にリクルートできた事の方が大事だ。優秀な人材確保は人口の減り続ける我が国に取っては急務だ。

(中略)

我が国の助成方針や報道の仕方を見ていて一つ懸念するのは、小保方さん自身が「ヒトSTAPの樹立を急ごう」などと臨床応用を目指した研究に移ってしまう事だ。幸い小保方さんを採用するときのインタビューで、彼女は私たち凡人の頭では思いつかない研究計画を提案していたので安心している。日の目を見なかったが最初のドラフトで「生への欲求は生物の本能だ」と、なぜ細胞にストレスを与える気になったのかの説明を始める感性は尋常ではない。彼女の様な人に自由にやってもらう事こそ我が国のためになる。小保方さんも是非国民の期待を手玉に取りながら、気の向くままに研究をして行って欲しいと願っている。


これはあまりメディアで取り上げられていないことなのだが、STAP細胞に関する特許はハーバード大のDr.Vacantiのグループに属する。もちろんその貢献者の中に小保方さんを含めた日本人は存在するが、特許自体はアメリカのものとなるだろう。もちろんiPS細胞の特許に関して京大が行ったように、ハーバード大もSTAP細胞に関して研究が進むように特許料を割安に抑える可能性はある。ただし重要なことは、この記事でも紹介したように、STAP細胞の技術は小保方さんの専門技術ではなく、ハーバード大のグループは既にサルやヒトを使ってデータを取り始めているということだ。さらには、先週論文が発表された時点で、おそらく全世界の幹細胞研究のグループが小保方さんの実験の追試を始めていると考えられ、今後STAP細胞に関しても激しい競争が予想される。その中で西川氏は、小保方さんを理研に雇うことで貴重な人材を国内に留めておくことができたと語っている。

面白いことに、西川氏は神戸理研で小保方さんを採用するときの面接官でもあったようで、その面接でも彼女の卓越さが垣間見られたようだ。STAP細胞のような成果が出てくると、すぐに臨床応用へと目が向き、国の研究予算も臨床応用を意識したプロジェクトへと傾きがちとなる。もちろん臨床応用も大事なことではあるが、基礎研究無くして臨床応用は無い。"細胞を酸につけて多能性を獲得させる"といった一見突飛に見えるアイデアでも(おそらく2週間前に言っても誰も信じなかっただろう)、今回のように大きな成果となることがある。すぐには臨床に結びつかないような基礎研究でも、きちんと支援していくことが科学立国として重要なことだ。

この問題に関して、読売新聞による若山教授へのインタビューでは以下のように語られてもいる。

――今や全国のヒロインとなった小保方さんに続く若手研究者は今後出ると思うか。

 「彼女は次元が違い、難しいかもしれない。小保方さんのように世紀の大発見をするには誰もがあり得ないと思うことにチャレンジすることが必要だ。でもそれは、若い研究者が長期間、成果を出せなくなる可能性があり、その後の研究者人生を考えればとても危険なこと。トライするのは並大抵の人ではできない」

今回のような常識を覆すような発見を行うには、その当時は非常識に見える研究を行わなければならない。しかし、非常識に見える研究は常人にとって支援の対象とはなりにくいというジレンマがある。研究費を支給する国や、さらに税金を納めている国民に、この点を是非理解してほしいと感じている。臨床研究も大事だが、それだけでは科学立国としては不十分だ。基礎研究無くして科学の発展はありえない。一見役に立たなそうな基礎研究でも長い目で支援していくことが大事だ。


追伸
西川氏が2月23日にニコ生でSTAP細胞の論文を解説してくれるらしい。必見。
「STAP論文徹底解説」

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