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STAP細胞懐疑派の声

先日の投稿では、権威ある日本人の研究者・西川伸一氏のSTAP細胞に関する記事を取り上げた。西川氏は結果に驚きを抱きながらも、小保方氏の研究者としての資質を評価し、今後の動向について注目していた。

しかしながら、STAP細胞がもたらした衝撃は大きく、その常識を覆す結果について懐疑的な意見を持つ人も当然いる。この投稿では、幹細胞研究の分野での著名な研究者の一人であり、STAP細胞に懐疑的な意見を持つ人を紹介したい。

Dr. Paul KnoepflerはUniversity of Califolnia、デイヴィス校で幹細胞の研究をしている。
Dr. Knoepflerのwiki(英語)

彼がブログに先週こんな記事を投稿している。

In a pickle over STAP stem cells: top 5 reasons for skepticism

"in a pickle"はピクルスの液に漬かっている状態の意味で、"困難な状況"を意味するのに使う。STAP細胞を巡る困難な状況と、STAP細胞作製のために酸性の液に浸けることを掛けている。彼は、STAP細胞に対して懐疑的な5つの理由を挙げている。


1. The STAP method & results are illogical.
STAP実験法と結果は非論理的だ


2. The STAP team previously reported “spore” stem cells, which to my knowledge have not been independently replicated.
STAP細胞を発表したチームは、以前Spore stem cellという別のグループで未だ再現性が確認できていないと思われる細胞を報告した。


3. The team also previously reported adult pluripotent stem cells.
STAP細胞のチームはさらに、成人の組織に存在する多能性細胞を以前報告した。


4. Evolution should have selected against a hair trigger for conversion to pluriopotency or totipotency.
些細な刺激による多能性・全能性の獲得は、進化によって排除されてきたはずだ。


5. Why the delay to make human STAP cells?
なぜヒトSTAP細胞の作製が遅れているのか?


元記事では一応それぞれの点にそう思う理由が書かれている。元記事に限らず、Dr. Knoepflerの一連のブログ記事を読んでいて感じたことは、彼がSTAP細胞に懐疑的な一番の理由はDr. Vacantiが嫌いだからなんだろうなということだ(あくまで個人的な意見だが)。Dr. Vacantiはこれまで色々な成果を報告してきたが、その中のいくつかは報告後に別のグループによって実験が再現されること無く今に至っており、今回のSTAPの論文も信用ならないと思っているのだろう。研究者が特定のグループの成果を絶対に信じたがらないというのは、この世界ではよくあることだ。

1.の非論理的との指摘は、元記事を読んでみると、これまでの生物学の常識にあまりにも反するということをどうやら意味したいようだ。しかし、Nature誌によるインタビューで小保方さんが語っていたように、植物やトカゲの尻尾に代表されるような、ストレス環境下で獲得される多能性はすでに生物に存在しているということを考えると、発想としてそこまで非常識というわけでもないと思う。同様にSTAP細胞の発見をストレス応答研究の延長線上に見る研究者はネット上でも散見される。

2. 3.の指摘は前述のようにDr. Vacantiのグループの報告は信用ならないという主張だ。自分は幹細胞研究や組織工学の分野の専門家ではなく、Dr. Vacantiグループの分野内での評判やこれまでの文脈は分からないので、この点に関するコメントは控えたい。

4. の指摘の趣旨は以下の通りだ。
「我々の体において、傷を負った箇所や腸管など、弱酸性の環境を示す場所はすでに存在している。仮にpH5.7くらいの弱酸性で細胞が多能性を獲得したとすると、多能性を獲得した細胞由来の腫瘍が生じるはずである(ES細胞やiPS細胞を何も操作を施さずそのまま体内に移植すると腫瘍になる)。腫瘍を作った生物の生存率は下がるので、仮に弱酸性で細胞が多能性を獲得する生物が誕生したとしても、その生物は進化において排除されるはずである。」

この主張はちょっと根拠が弱いように感じる。もし我々の体内でSTAP細胞化が起こっていると仮定するなら4. の指摘は正しい。しかし、今回の論文は体内の生理的な状況でSTAP細胞化が起こることを示した論文ではないし、おそらくそれは起こらないだろうというのは経験的に想像がつく。小保方さんらが示したのは、あくまで細胞を体外に取り出して試験管の中で起こした現象だ。体の中と試験管の中の環境は月とスッポンほど違う。片方で起こる現象が必ず片方でも起こるという保証は全くない。

5. の主張はDr. Vacantiも頭を抱えている所じゃないかと予想している。2011年にはマウスでSTAP細胞の作製に成功していたと彼らは言っているので、3年もの間にもっとも重要なヒト細胞のSTAP細胞化が何故できないんだというのは、誰しも感じる疑問だと思う。これに関しては今後の報告を待つしかないが、マウスの細胞でSTAP細胞化が確立できるなら必ずしも悲観することでは無い。何故マウスで成功してヒトで成功しないのか、理由を突き止めればそれをもとに改善策を考えられる。それを繰り返していればいつかは成功するかもしれないからだ。



STAP細胞の作製は、現在世界中の幹細胞研究室で追試が行われている所だろう。Dr. Knoepflerはこれらの追試の結果を共有するため、研究者が最新の実験結果を共有できるページを立ち上げた。
http://www.ipscell.com/stap-new-data/

2月13日現在6つの実験結果が報告され、どれもSTAP細胞の作製に失敗しているようだ。



いずれにしろ、このようなパラダイムシフトに重要なことは、実験結果が誰でも再現可能なことだ。iPS細胞は世界中で再現可能だったので研究が進み、臨床応用にまで至った。STAP細胞に関しても、おそらく遅くとも2か月後には再現可能かそうでないのかの答えは出ているだろう。

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コメント

リンク先の追試結果報告の中で、
Yoshiyuki Seki on 2/13/14
がポジティブな結果を報告していますね。
よくわかりませんが、こういった実験は非常に繊細なテクニックが要るのですか?
マウスの生育度合いなどにシビアに結果が左右されるのでしょうか?

リンク先の仕様が色々と語弊を招くようになっているので注意が必要です。単純に成功・失敗を緑・赤で色分けしていますが、2月14日時点で報告されている8件はすべて、論文に記載されたそのままの方法で実験を行っているわけではないんです。

小保方さんの論文は、生後一週間以内のマウスの脾臓細胞から、さらに白血球を選り分けた後にSTAP細胞化を行っています。対してリンク先では、別の細胞を使ったり、まだ成功が報告されていないヒトの細胞を使ったりしています。「論文に書かれたとおりに実験したけど再現できなかった」ということと、「独自の方法で実験したけど似たような結果が得られなかった」というのは全く別のことです。

ただし、これまでの情報を顧みると、STAP細胞化は非常に限られた条件でしか成功しないのかもしれないということは言えるかもしれません。いずれにせよ、もっと多くの研究者による追試が必要でしょうね。

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