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STAP騒動の行く末(時系列まとめあり)

前回の投稿で若山教授のインタビューの和訳を投稿してから大分時間が経っているが、この間にSTAP細胞に対して持っていた期待はほぼ消失し、大きな失望へと変わった。

とりあえず、これまでの経緯を時系列にそってまとめてみようと思う。



1月29日夜
Natureでの2本の論文(Article, Letter)公開に合わせ、理研が大々的にプレスリリースを行う。国内外のメディアがこぞって報道する。成果は驚きと称賛をもって迎えられ、関係者や分野の著名人もソーシャルメディアを通して小保方氏に称賛を送る。

科学とは関係ない小保方氏の人柄に焦点を当てた報道が過熱する。


2月5日
Pubpeer内のコメントでArticleFig.1iにおける不適切な処理が発見される。


2月7日
京大の山中教授が報道ステーションに出演し、STAP細胞とiPS細胞比較報道の誤りを説明する。


2月10日頃
当初からSTAPに関する記事をブログに投稿していたカリフォルニア大学デイヴィス校の幹細胞生物学者Dr. KnoepflerがSTAP実験追試の報告サイトを立ち上げる。次々と再現失敗の報告が投稿される。


2月13日頃
2011年に発表された小保方氏が筆頭著者の論文で、画像の使い回しが見つかる。
Letterの二つの異なる実験の画像にある胎盤の類似が指摘される。
これらの疑惑が世界変動展望氏やJuuichiJigen氏によってまとめられ、急速に拡散し、疑惑が広く知られるようになる。

理研・Natureがそれぞれ疑惑の指摘を受けて調査を開始する。


2月17日
Nature newsの記者独自の取材により、世界の10つの有名研究室で再現が取れないこと、共著者である若山教授も現在は再現ができないことが明らかになる

この頃からArticleやLetterの図における不自然な点が次々と報告される。

疑念が高まるのを見かねてか、理研が海外メディアに対して詳細なプロトコールを公開することを明言する。


2月26日
ArticleのMethodに剽窃(コピペ)が見つかる


2月27日
Dr. Knoepflerが若山教授へのインタビューを掲載する。


3月3日
分子生物学会がSTAP論文に対して声明を発表する。


3月5日
理研が突如詳細版の手順を発表する。そこでSTAP-SCにはTCR再構成が無かったという論文の主張と矛盾するような事実が明らかになる

STAP細胞の作製が論文発表後初めて小保方氏らによって再現されたと理研が発表

理研内部の人物であると自称するkaho氏がSTAP細胞の非実在についてと題する一連の投稿を始める。


3月9日
JuuichiJigen氏により、Articleに小保方氏の博士論文からの画像使い回しが発覚する。このデータはSTAP細胞の多能性を示す重要なデータであり、主張の根幹が疑われ始める。この時点でSTAPの存在を信じる人は少数派になる。

以後小保方氏の博士論文中に剽窃や画像盗用が次々と見つかる。


3月10日
若山教授がデータに確信を持てなくなったとして、著者らに論文撤回を呼びかける。同時にSTAP-SCの検証を第3者研究機関に委託することを発表。
kaho氏のSTAP細胞の非実在について#5で、STAP細胞とES細胞がほぼ同一の細胞である可能性(STAP細胞はES細胞のコンタミネーションの結果である可能性)が指摘される。


3月11日
理研がSTAP論文の取り下げを視野に入れて検討していることを発表する。
共著者である理研の笹井氏が上原賞の授賞式に出席。


3月13日
理研内のSTAP論文共著者全員(小保方氏含め)が論文取り下げに同意したとの報道。
ハーバード大のバカンティ教授は取り下げに反対。


3月14日
WSJが小保方氏から「(次々と剽窃・盗用が見つかっている)博士論文は下書き」と主張するメールを受け取ったと報じる。

理研がSTAP論文疑惑調査の中間発表を4時間に渡り敢行毎日:一問一答)。悪意のある捏造だったかの決定は先送り。竹市センター長「小保方氏は未熟な研究者」


3月15日頃から
小保方氏の博論の査読委員だった早稲田の教授が指導した他の博士号取得者の博論から次々とコピペ・盗用が見つかる。
小保方氏が早稲田の教員に博士論文の撤回を申し出たとの報道。


3月18日
理研が再現実験に3か月、まとめに1年かかるとの見通しを発表。
週刊誌によるゴシップ報道が過熱。


3月21日
ハーバード大のバカンティグループが、論文とは異なる独自のプロトコールを発表。クレジットも無く、たったの4ページで詳細とは決して言えない内容に批判が殺到。

←今ここ!!


こうやってまとめてみると、まさに激動の1か月半だった言える。話題には事欠かなかったが、最終的に失望でもって事態が収束に向かっているのは、大変残念に感じる。

これだけSTAPが注目を浴びた理由は簡単だ。それが本当なら世紀の大発見だったから。iPSの技術を用いてすでに再生医療の分野は発展してきているが、STAPの技術が確立されるなら再生医療の発展がより強固なものになるように思われたから。これらのことは僕が論文発表直後に書いた記事にも書かれている。どれだけ今回の発見に期待していたか、そしてどれだけ踊らされていたかの参考になると思うのでこれらの記事も残しておきたい。下に関連投稿としてリンクを貼るので興味のある方は飛んでみると良い。

後になって考えてみると、このような手放しで科学の発見を称賛するのは研究者としては失格なのだが、このようなこともあるのだなと肝に銘じて今後は気を付けるようにしたい。発表直後に著名な研究者も含めて発見を称賛していた根拠はちゃんとあり、一つは論文のFigureを見ると主張がちゃんと証明されているように見えること。(今になって見ると怪しい点が結構ある。当時気づけなかったことを自分に戒めておきたい。)もう一つは、共著者に一流の研究者が名を連ねていたこと。笹井氏は上原賞を受賞するほどその実績が広く認められているし、若山教授も同様だ。僕は笹井氏の講演を聞いたことは無いのだが、若山教授は一度講演を拝聴したことがあり、その時の印象からはとてもデータを捏造するような人には思えなかった。そういうこともあって、僕はこの発見を本当なんだろうと信頼していたし、多くの同業者もそうだったろう。

論文内における不自然な画像が明らかになっていく過程でも、この発見が持つ意義を重く見て信じたい気持ちがあった。それが日が経つにつれ、追試失敗の報告が増えて理研のプレスリリースは嘘っぱちだったことが明らかになり、博論からの画像転用が明らかになった時点で期待の気持ちは失望へと変わった。

極めつけはkaho氏によるChIP-seq・inputの解析データを目にしたことだ(STAP細胞の非実在について#5)。もちろん現段階ではこれはネット上の匿名の投稿に過ぎないし、その主張の正しさを自ら確かめる能力は自分には無い。しかし、若山教授がキメラマウス作製に用いた細胞がSTAPではなくてコンタミしたES細胞だったと仮定すると様々な疑問点が説明できる。

まだ調査の結果が出ていないし、断言することはできない。しかし、これまで明らかになった数多くの事実を考慮して、現段階で"僕が"考える尤もらしい騒動のストーリーとしては、論文のデータの多くは小保方氏の未熟さに起因する勘違いか、もしくは故意の捏造であり、現状のプロトコールで酸処理された細胞には多能性も全能性も無い、というところだろう。

何故こんなことになってしまったのだろうか。この発見が世紀の大発見として世間を騒がすことは容易に想像がついただろうに、論文の共著者たちは都合良く出てくるデータに疑念を持つことは無かったのだろうか。

仮にこの騒動が彼女の捏造により引き起こされたとして、彼女は一体何を求めていたのだろうか。捏造をすれば他のグループで再現が取れずに問題になることは誰でも分かることだ。偽りの成果によってどれだけ多くの人々が期待をし、どれだけ多くの研究者のリソースが無駄に割かれるかを彼女は分かっていたのだろうか。物事が確定していない現時点でこういうことは書くべきではないのかもしれない。


この騒動がもたらしたものとして注目すべきこともある。理研は今回のプレスリリースで何を思ったか研究とは関係ない彼女の個性を全面的に押し出す広告戦略を取った。その戦略は良くも悪くも成功し、STAPは国民的関心となった。これは果たして科学の成果を発表するプレスリリースとして適切だったのかという議論が巻き起こっている。科学と一般市民をつなぐ科学コミュニケーションはどうあるべきか、今後も議論されていくだろう。

また、インターネットを通じた情報共有が今回の騒動に大きな役割を果たした。Dr. Knoepflerのブログを始めとして、pubpeerや2ch等で当初から積極的にデータが議論されており、不正が見つかればtwitterやFacebookを介して全世界的に一気に拡散した。インターネットが無かったら、STAPを再現するために多くの研究者の貴重なリソースが莫大に割かれていたところだろう。科学コミュニティも新時代に入ったと感じる。



差し当たり現状のまとめと私見を記した。続報があればまた記事にしようと思う。


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