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STAP細胞懐疑派の声

先日の投稿では、権威ある日本人の研究者・西川伸一氏のSTAP細胞に関する記事を取り上げた。西川氏は結果に驚きを抱きながらも、小保方氏の研究者としての資質を評価し、今後の動向について注目していた。

しかしながら、STAP細胞がもたらした衝撃は大きく、その常識を覆す結果について懐疑的な意見を持つ人も当然いる。この投稿では、幹細胞研究の分野での著名な研究者の一人であり、STAP細胞に懐疑的な意見を持つ人を紹介したい。

Dr. Paul KnoepflerはUniversity of Califolnia、デイヴィス校で幹細胞の研究をしている。
Dr. Knoepflerのwiki(英語)

彼がブログに先週こんな記事を投稿している。

In a pickle over STAP stem cells: top 5 reasons for skepticism

"in a pickle"はピクルスの液に漬かっている状態の意味で、"困難な状況"を意味するのに使う。STAP細胞を巡る困難な状況と、STAP細胞作製のために酸性の液に浸けることを掛けている。彼は、STAP細胞に対して懐疑的な5つの理由を挙げている。


1. The STAP method & results are illogical.
STAP実験法と結果は非論理的だ


2. The STAP team previously reported “spore” stem cells, which to my knowledge have not been independently replicated.
STAP細胞を発表したチームは、以前Spore stem cellという別のグループで未だ再現性が確認できていないと思われる細胞を報告した。


3. The team also previously reported adult pluripotent stem cells.
STAP細胞のチームはさらに、成人の組織に存在する多能性細胞を以前報告した。


4. Evolution should have selected against a hair trigger for conversion to pluriopotency or totipotency.
些細な刺激による多能性・全能性の獲得は、進化によって排除されてきたはずだ。


5. Why the delay to make human STAP cells?
なぜヒトSTAP細胞の作製が遅れているのか?


元記事では一応それぞれの点にそう思う理由が書かれている。元記事に限らず、Dr. Knoepflerの一連のブログ記事を読んでいて感じたことは、彼がSTAP細胞に懐疑的な一番の理由はDr. Vacantiが嫌いだからなんだろうなということだ(あくまで個人的な意見だが)。Dr. Vacantiはこれまで色々な成果を報告してきたが、その中のいくつかは報告後に別のグループによって実験が再現されること無く今に至っており、今回のSTAPの論文も信用ならないと思っているのだろう。研究者が特定のグループの成果を絶対に信じたがらないというのは、この世界ではよくあることだ。

1.の非論理的との指摘は、元記事を読んでみると、これまでの生物学の常識にあまりにも反するということをどうやら意味したいようだ。しかし、Nature誌によるインタビューで小保方さんが語っていたように、植物やトカゲの尻尾に代表されるような、ストレス環境下で獲得される多能性はすでに生物に存在しているということを考えると、発想としてそこまで非常識というわけでもないと思う。同様にSTAP細胞の発見をストレス応答研究の延長線上に見る研究者はネット上でも散見される。

2. 3.の指摘は前述のようにDr. Vacantiのグループの報告は信用ならないという主張だ。自分は幹細胞研究や組織工学の分野の専門家ではなく、Dr. Vacantiグループの分野内での評判やこれまでの文脈は分からないので、この点に関するコメントは控えたい。

4. の指摘の趣旨は以下の通りだ。
「我々の体において、傷を負った箇所や腸管など、弱酸性の環境を示す場所はすでに存在している。仮にpH5.7くらいの弱酸性で細胞が多能性を獲得したとすると、多能性を獲得した細胞由来の腫瘍が生じるはずである(ES細胞やiPS細胞を何も操作を施さずそのまま体内に移植すると腫瘍になる)。腫瘍を作った生物の生存率は下がるので、仮に弱酸性で細胞が多能性を獲得する生物が誕生したとしても、その生物は進化において排除されるはずである。」

この主張はちょっと根拠が弱いように感じる。もし我々の体内でSTAP細胞化が起こっていると仮定するなら4. の指摘は正しい。しかし、今回の論文は体内の生理的な状況でSTAP細胞化が起こることを示した論文ではないし、おそらくそれは起こらないだろうというのは経験的に想像がつく。小保方さんらが示したのは、あくまで細胞を体外に取り出して試験管の中で起こした現象だ。体の中と試験管の中の環境は月とスッポンほど違う。片方で起こる現象が必ず片方でも起こるという保証は全くない。

5. の主張はDr. Vacantiも頭を抱えている所じゃないかと予想している。2011年にはマウスでSTAP細胞の作製に成功していたと彼らは言っているので、3年もの間にもっとも重要なヒト細胞のSTAP細胞化が何故できないんだというのは、誰しも感じる疑問だと思う。これに関しては今後の報告を待つしかないが、マウスの細胞でSTAP細胞化が確立できるなら必ずしも悲観することでは無い。何故マウスで成功してヒトで成功しないのか、理由を突き止めればそれをもとに改善策を考えられる。それを繰り返していればいつかは成功するかもしれないからだ。



STAP細胞の作製は、現在世界中の幹細胞研究室で追試が行われている所だろう。Dr. Knoepflerはこれらの追試の結果を共有するため、研究者が最新の実験結果を共有できるページを立ち上げた。
http://www.ipscell.com/stap-new-data/

2月13日現在6つの実験結果が報告され、どれもSTAP細胞の作製に失敗しているようだ。



いずれにしろ、このようなパラダイムシフトに重要なことは、実験結果が誰でも再現可能なことだ。iPS細胞は世界中で再現可能だったので研究が進み、臨床応用にまで至った。STAP細胞に関しても、おそらく遅くとも2か月後には再現可能かそうでないのかの答えは出ているだろう。

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STAP細胞について、興味深い記事を見つけたので紹介したい。

1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文

記事はNPO法人であるAASJ(オール・アバウト・サイエンス・ジャパン)のコンテンツ、科学報道ウォッチで1月30日に公開となったものだ。AASJの代表者で、記事の筆者でもある西川伸一氏は熊本大医学部教授や京大医学系研究科教授、理研グループリーダーなどを歴任し、免疫学や発生学、幹細胞生物学などの分野で第一線の活躍をしてきた研究者だ。定年で研究の現場を退いた後も、このAASJ等を通して精力的に活動を行っている。ちなみに西川氏は小保方晴子氏が現在勤める神戸理研で昨年まで研究を行っており、今回の論文の関係者でもあるらしい。以下気になったところを引用してみたい。

この論文には私も思い出が深い。最初にこの話を聞いたのは仕事でイスラエルに滞在していた約3年前の事で、メールでの依頼に応じて論文のレフェリーコメントにどう答えればいいのかなどボストンのバカンティさんと電話で話をした。その後帰国してから、若山研に寄宿して実験をしていた小保方さんと出会って論文についてアドバイスをした。話を詳しく聞いて研究の内容についてももちろん驚いたが、小保方さんと言う人物にも強い印象を受けた。特に最初の論文のドラフトを読んだ時、自分の気持ちをそのままぶつけた初々しい書き様に、普通の研究者とは違うことを確信した。その時と比べると、今回久しぶりに目にした論文は堂々とした成熟した論文に変わっていた。苦労が実ってよかったと我が事のように思う。

3年前というと2011年で、小保方さんは震災をきっかけに日本に留まり、山梨大の若山教授に協力を仰いだとどこかの記事で見たので、その時期と一致する。その頃には、今回発表された論文の前段階にあたるSTAP細胞の論文が既に投稿されており、論文を評価するレビュアー(レフェリー)から返ってきた(おそらく辛辣な)コメントに対して、どうやって答えればいいかDr. Vacantiから相談を受けたと語っている。

先月に発表されたSTAP細胞に関する2本の論文のうち、1本目の論文は大まかな構造を記すと、

1.酸浴による白血球のリプログラミング

2.リプログラミングされた細胞の培養皿(in vitro)における実験やマウスへの移植実験による特徴づけ

3.キメラマウス作製による多能性の証明

のような構造になっている。このうち、2番目までのデータはおそらくこの時までに揃っていたが、それだけではこの生物学の常識を覆す現象をレビュアーに納得させるには不十分で、小保方さんは若山教授の協力を仰いで更に説得力のあるデータを取ろうとしたのだと予想される。読売新聞による若山教授へのインタビューによると、STAP細胞由来の細胞を持った最初のマウスが生まれたのは2011年の末頃らしいので、おそらく半年以上かけてSTAP細胞を使ったキメラマウス作製に取り組んだのだろう。それから2012から2013年にかけて、多能性・全能性を証明し、2本目の論文との同時投稿という形で、先月発表になったと考えられる。

これだけのことを証明した2本の論文の筆頭著者というだけで、小保方さんの卓越さを証明するには十分だが、西川氏は小保方さんについてさらに"自分の気持ちをそのままぶつけた初々しい書き様に、普通の研究者とは違うことを確信した"とコメントしている。「生物学の歴史を愚弄している」とレビュアーに酷評されてもめげずに信念を貫いて今回の論文を書き上げた、小保方さんの研究者としての資質がここからも読み取れると思う。

西川氏はSTAP細胞発見の驚きについて、専門家として以下のようにコメントしている。

ただ問題は、驚きが論理的な納得に変わらない点だ。おそらくこの点が論文採択までに苦労が強いられた原因だろう(新聞を見ると採択されず泣き明かしたとまで書いてある)。論理的に納得できるようになるには、この現象の背景にあるメカニズムを理解する必要がある。酸や他のストレスでエピジェネティック機構が影響を受ける事は私も想像できる。再現性の高い実験結果である事も十分示せていると思う。しかし、エピジェネティック機構の揺らぎが、なぜ全能性のネットワーク成立に落ち着くのかなど、納得できない点が多い。おそらく体細胞では厳密に押さえられている多能性遺伝子が、酸や様々なストレスで開放され、多能性の転写ネットワーク形成を自然に促すのだろう。

(中略)

何れにしても小保方さんの結果により再認識させられるのは、どの方法でリプログラミングを誘導しようとも、リプログラミング自体が生理的な過程ではないことだ。事実、私たちのゲノムは30億塩基対という膨大な物だ。この30億塩基対のエピジェネティックな状態の細部を思い通りに制御するなど至難の業だ。このため、表面的な転写ネットワークは同じでも、リプログラムのされ方が異なる多様な状態が可能なのだろう。おそらく、今後も様々な状態の全能性・多能性の幹細胞が報告される事だろう。


今回の論文では体細胞を酸に漬けただけで多能性が獲得されるという現象が示されたが、そのメカニズムとしてはまさにブラックボックスだ。西川氏は"リプログラミング自体が生理的な過程ではない"と語っている。"生理的な過程ではない"とはどういうことかというと、我々の体で普段絶対に起こらないということだ。お酢を飲んでも体内でSTAP細胞が誘導されないことからも分かるように、多能性の獲得は普段体の組織の中で厳密にコントロールされ、絶対に起こらないと考えられてきた。そのリプログラミングが、酸浴によるストレスや、おそらく体外に取り出して培養することによって生じる微小環境の変化により生じる。これがどのような機構で生じるか解明することが、今後の再生医療の発展のためにも重要だ。

続いて西川氏は今後の競争について以下のように語っている。

メディアも競争について気になるなら、特許が日本かアメリカかを調べた方がいい。元々この仕事は小保方さんがバカンティ研で一人で始めた研究だ。ハーバードでもプレス発表があった。我が国独自の技術だなどと考えると、ぬか喜びになるかもしれない。もちろん、特許が全てアメリカに握られていたとしても、小保方さんを我が国にリクルートできた事の方が大事だ。優秀な人材確保は人口の減り続ける我が国に取っては急務だ。

(中略)

我が国の助成方針や報道の仕方を見ていて一つ懸念するのは、小保方さん自身が「ヒトSTAPの樹立を急ごう」などと臨床応用を目指した研究に移ってしまう事だ。幸い小保方さんを採用するときのインタビューで、彼女は私たち凡人の頭では思いつかない研究計画を提案していたので安心している。日の目を見なかったが最初のドラフトで「生への欲求は生物の本能だ」と、なぜ細胞にストレスを与える気になったのかの説明を始める感性は尋常ではない。彼女の様な人に自由にやってもらう事こそ我が国のためになる。小保方さんも是非国民の期待を手玉に取りながら、気の向くままに研究をして行って欲しいと願っている。


これはあまりメディアで取り上げられていないことなのだが、STAP細胞に関する特許はハーバード大のDr.Vacantiのグループに属する。もちろんその貢献者の中に小保方さんを含めた日本人は存在するが、特許自体はアメリカのものとなるだろう。もちろんiPS細胞の特許に関して京大が行ったように、ハーバード大もSTAP細胞に関して研究が進むように特許料を割安に抑える可能性はある。ただし重要なことは、この記事でも紹介したように、STAP細胞の技術は小保方さんの専門技術ではなく、ハーバード大のグループは既にサルやヒトを使ってデータを取り始めているということだ。さらには、先週論文が発表された時点で、おそらく全世界の幹細胞研究のグループが小保方さんの実験の追試を始めていると考えられ、今後STAP細胞に関しても激しい競争が予想される。その中で西川氏は、小保方さんを理研に雇うことで貴重な人材を国内に留めておくことができたと語っている。

面白いことに、西川氏は神戸理研で小保方さんを採用するときの面接官でもあったようで、その面接でも彼女の卓越さが垣間見られたようだ。STAP細胞のような成果が出てくると、すぐに臨床応用へと目が向き、国の研究予算も臨床応用を意識したプロジェクトへと傾きがちとなる。もちろん臨床応用も大事なことではあるが、基礎研究無くして臨床応用は無い。"細胞を酸につけて多能性を獲得させる"といった一見突飛に見えるアイデアでも(おそらく2週間前に言っても誰も信じなかっただろう)、今回のように大きな成果となることがある。すぐには臨床に結びつかないような基礎研究でも、きちんと支援していくことが科学立国として重要なことだ。

この問題に関して、読売新聞による若山教授へのインタビューでは以下のように語られてもいる。

――今や全国のヒロインとなった小保方さんに続く若手研究者は今後出ると思うか。

 「彼女は次元が違い、難しいかもしれない。小保方さんのように世紀の大発見をするには誰もがあり得ないと思うことにチャレンジすることが必要だ。でもそれは、若い研究者が長期間、成果を出せなくなる可能性があり、その後の研究者人生を考えればとても危険なこと。トライするのは並大抵の人ではできない」

今回のような常識を覆すような発見を行うには、その当時は非常識に見える研究を行わなければならない。しかし、非常識に見える研究は常人にとって支援の対象とはなりにくいというジレンマがある。研究費を支給する国や、さらに税金を納めている国民に、この点を是非理解してほしいと感じている。臨床研究も大事だが、それだけでは科学立国としては不十分だ。基礎研究無くして科学の発展はありえない。一見役に立たなそうな基礎研究でも長い目で支援していくことが大事だ。


追伸
西川氏が2月23日にニコ生でSTAP細胞の論文を解説してくれるらしい。必見。
「STAP論文徹底解説」

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STAP細胞に関するNew York Timesの記事(英語)。

Study Says New Method Could Be a Quicker Source of Stem Cells

今回の論文の共同著者であり、小保方氏のハーバード大学におけるボスでもある、Dr. Charles A. Vacantiのインタビュー等が載っていたので、抜粋して紹介したい。ちなみにこのDr. Charles A. Vacantiは、再生工学の分野では有名人らしく、Vacanti mouseを作った人でもある。Vacanti mouseの写真は、この業界の人なら誰しも見覚えがあるだろう。

以下、僕が適当に抜粋した記事とその訳

__________________________________


Dr. Charles A. Vacanti, director of the laboratories for tissue engineering and regenerative medicine at Brigham and an author of the studies, said the technique could also raise ethical issues because it might provide an easier way than current cloning techniques of creating a duplicate of an animal, or even a person.

Dr. Charles A. Vacanti(ブリガム病院(ボストンにある大きな病院)における組織工学・再生医療研究室の室長であり、今回の研究の著者でもある)は、STAP細胞作製技術は、クローン動物、もしくはクローン人間の作製でさえより簡単に行えるクローニング方法になり得るため、倫理的な問題も引き起こすかもしれないと述べた



Some experts expressed caution, saying more needed to be known about the new approach and that existing techniques for making stem cells had improved markedly in recent years.

“The existing methods are already quite advanced,” said Sheng Ding, a scientist at the University of California, San Francisco, and the affiliated Gladstone Institutes. “It’s too early to say this is better, safer or more practical.”

何人かの専門家は、新しい手法についてよく知ることと、従来の幹細胞作成法も近年著しく向上してきたことについてよく知る必要があると警告した。

「従来の方法も既にかなり進展している」カリフォルニア大学サンフランシスコ校の科学者であるSheng Dingは述べた。「この手法が(iPSなどの)従来の方法より優れていて、安全で実用的と決めるにはまだ早すぎる」




If the technique is to be used to treat patients, it would have to work with cells taken from adult humans, not newborn mice.

Dr. Vacanti said researchers had already replicated the work using adult monkey cells and skin cells from newborn human babies, but not yet from human adults.

もしこの技術が患者の治療に使われるなら、新生児ではなく成人から細胞を取得できなくてはならない。

Dr. Vacantiによると、彼らは既に成熟したサルの細胞と、ヒトの新生児の皮膚細胞からSTAP細胞を作ることに成功しているが、人間の成人からはまだだ。

(訳者注:別の報道では、ヒトの新生児の皮膚から作製したSTAP細胞は、まだきちんと特徴づけできていないと言っている。たぶんDr. VacantiがNYTの記者に誇大広告したか、記者が早とちりしたかのどちらかだろう)



He said the research stemmed from work years ago by his lab and others that appeared to find pluripotent cells in the bodies of adult people or animals. He said he began to suspect that researchers were not actually finding stem cells in the body but rather creating them through the stress from the manipulation of the cells in the laboratory.

It has taken several years of work to demonstrate this. Much of it was done by Haruko Obokata, who started as a graduate student in Dr. Vacanti’s lab and is now a biologist at Riken. She is the lead author of the two papers in Nature.

Dr. Vacantiは、この研究は数年前に彼のラボの研究員らが、成熟したヒトや動物の体から多能性細胞を見つけたように思える仕事から生じた。彼は、研究者らは体内の幹細胞を見つけているのではなく、研究室において細胞を扱う際にかかるストレスによって幹細胞を作りだしているのではないかと疑うようになった。

このことを証明するのに数年の歳月を要した。その証明の大部分は、Dr. Vacantiラボのかつての大学院生で現在は理研の研究者である小保方晴子氏によって行われた。彼女は今回Natureに発表された2本の論文の筆頭著者だ。




The STAP cells, under the right culture conditions, can form material for the placenta, not just the embryo, which might allow an animal to be cloned just by putting some of its STAP cells in a uterus. Dr. Vacanti said that one researcher, whom he declined to name, had already tried that with mice but had not succeeded.

STAP細胞は適切な条件下において、胚だけでなく胎盤を形成することができ、これはSTAP細胞を子宮の中に配置するだけでクローン動物ができる可能性を示唆している。Dr. Vacantiは、とある研究者(名前は明かさなかったが)がすでにマウスでその実験を行ったが、まだ成功していないと語った。



抜粋終わり________________________




気になった点
すでに成熟したサルでSTAP細胞を使った治療実験に成功しているらしい
昨日の読売のニュースでも報道されていたが、ハーバード大のグループは既に人工的に脊椎損傷を起こしたサルから、STAP細胞を作製して下半身不随の治療に成功しているらしい。小保方氏の論文では、実験結果はすべてマウスから得られたもので、しかも生後一週間以内のマウスから細胞を取らなければいけないという点が第一のネックだった。論文発表の直後のタイミングで、ハーバード大のグループが論文として未発表の情報を出してきたのは、他のグループを牽制する狙いがあるとみられる。「我々は既に君たちのこんなに先を言ってるから競争しても無駄だよ」とライバルをひるませる作戦だ。

サルは言うまでもなくマウスよりもヒトに近い。サルでSTAP細胞の作製とそれを用いた治療に成功したということは、ヒトでもそれらのことをそう遠くない未来に達成するだろうという気がする。

気になるのは、サルやヒトの細胞を使った研究に、小保方氏をはじめとした日本のグループはそんなに深く関わっていないのではないのかという気配がすること。もちろん、報道で流れてくる情報を元に部外者である自分が予想しているだけなので、実際は違うかもしれない。しかしながら、ハーバード大のグループは小保方氏の貢献に最大限の敬意は払っているが、「今後はこちらで進めさせてもらいますよ」と言っているように見えなくもないのだ。

30歳という若さで今回の発見をした小保方氏は称賛してもしたりないが、今後彼女だけで研究を発展させ、世界との競争に勝っていくのは大変なことだろう。今回の論文の共同著者である山梨大の若山照彦教授は畜産分野で一流の研究者だが、ヒトへの応用研究が得意というわけではないように見える。せっかく見つけた期待の芽だ。外国との競争に負けて手柄を持って行かれるような事態はできれば避けてほしい。幸いにも京都にこの分野で競争力のある大きな研究所があるので、今後は神戸などのグループと協力して分野を推し進めてもらうのが、国民の望むところだろう。


クローン動物が簡単にできてしまうかも?
前回の投稿では触れていなかったが、STAP細胞にはiPS細胞やES細胞には無かったポテンシャルがある。STAP細胞は胎盤を形成することができるのだ。上記のNY Timesの記事中でDr. Vacantiも言及しているが、これはクローン動物、さらにはクローン人間の作製を飛躍的に簡単にするかもしれないことを示唆している。STAP細胞を子宮に入れるだけで子供ができちゃうかも・・・なんて発言もしている(マウスを使った実験ではまだ成功していないらしいが)。クローン人間を作ることが倫理的に許容されることは、我々が生きている間には起こらないと思っているけれども、どっかの国の狂った医師が各国の法律に違反しない公海上でクローン人間を作ろうとしたなんて噂も聞くので、もしかしたら近い将来どこかでクローン人間が生まれてもおかしくないかもしれない。



日本のみならず世界の世間をここまで騒がせたSTAP細胞。騒動の大きさは、それだけ今回の発見のインパクトが大きかったことを表している。みな今後の再生医療の発展に期待しているし、新規治療法を心待ちにしている患者もいる。再生医療の更なる発展を期待している。


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今日Natureで理研による2本の論文がオンラインになり、そしてそれに関するプレスリリースが出された。それらは各大手新聞社にも取り上げられ、SNSでも大きな盛り上がりを見せている。非常に重要な発見なのは間違いないので、このブログでも紹介したい。

Natureに発表された、小保方晴子氏らによる2本の論文

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency

理研によるプレスリリース
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見
-細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導-


これに対する各新聞社の記事。タイトルの違いが面白い

日経:理研、万能細胞を短期で作製 iPS細胞より簡単に

読売:第3の万能細胞STAP作製…iPSより簡単に

産経:新型「万能細胞」作製…ES、iPSに続く「STAP」 理研、酸の刺激だけで成功

毎日:新万能細胞:作製に成功 簡単でがん化せず 理研など


マウスの細胞をpH5.7(弱酸性)の液に30分程浸し培養すると、数日であらゆる種類の細胞に分化できる万能細胞になる。iPS細胞と異なり、細胞に遺伝子導入をする必要が無いので、細胞が‘がん化’する可能性を大きく下げられる。しかもiPS細胞よりも高効率で作れる。これは今後の再生医療にとって非常に重要な発見だと思う。

ただし、今回の論文はすべてマウスの細胞によるデータらしい。聞くところによると、このプロジェクトに取り組み始めたのは5年前らしい。5年もの歳月があれば、研究グループはたぶんヒトの細胞でも実験を行うと思うのだが、ヒトのデータがまだ含まれていないということは、もしかしたらヒトの細胞ではまだ実験が上手く行ってないのかもしれない。もしくは、ヒトの細胞で実験を行う際に必要となる煩雑な倫理申請の間に、情報が漏えいすることを恐れてヒトの細胞を使った実験は本当にこれからやるのかもしれない。iPS細胞でも、マウスの論文が出てから、ヒトの論文が出るまで1年くらい掛かったと記憶している。今後に期待だ。

たとえマウス細胞で誘導できたようにヒトの細胞で誘導できなくても、今回の発見がとても重要なことに変わりはない。このようなリプログラミングが何故起こるのかというメカニズム解明が進めば、それをきっかけにさらに新しい方法が見つかるかもしれない。



Nature公式のニュース(英語)に、小保方晴子ユニットリーダーのインタビューがあったので、一部抜粋して書き起こしてみたい。
インタビューの元はここで聞けます。

小保方さん- 例えばニンジンのような植物では、強い外界ストレスに晒された時に、完全に分化した細胞から幹細胞を誘導することができます。私は直感的に、私たちも植物のような機構を持っているのではないかと感じました。

記者- ニンジンをスライスすると、幹細胞が生じる。それであなたは哺乳類でもニンジンのような再生能力があるのではないかと考えたのですね。あなたはこのアイデアを思い付いた時に料理をしていたのですか?

小保方さん- いいえ(笑)、私はこのアイデアを思い付いた時は、お風呂に浸かっていました。

ナレーター - インスピレーションはある意味"不都合な"場所で生じるようです。小保方さんは、物理的に環境へ操作を加えることで、幹細胞を作れるのではないかと考えました。彼女は様々なことを試します。

小保方さん- 私は思いつく限りのことを試しました。例えば、ピペットで細胞を吸ってみたり、細胞を飢えさしてみたりしました。

ナレーター - 最終的に成功したのは「酸」でした。低いpHの溶液が細胞をひるませ、それらを幹細胞の状態へ戻したのです。研究チームはこの細胞をSTAP細胞と名付けました。(STAP: stimulus-triggered acquisition of pluripotency)

(中略)

記者- これは並外れて驚くべき実験結果ですが、あなたの達成したことを人々に説得するのは難しかったですか?

小保方さん- そうですね、私はとてもナイーブだったので、何故誰も私を信じてくれないのか理解できませんでした。さらに、どんなデータで人々を説得できるのかも分かりませんでした。それゆえ、私は他の細胞では決して得ることができないデータを集めようとしました。そしたら、最初の実験から5年もの歳月がかかりました。

ナレーター - 研究者がせっかちであることを非難してはいけません。ただの「酸性」条件だけで(万能細胞を誘導するのに)充分だったのです。





5年かけて、一生懸命積み重ねた実験結果を、こうして大々的に世へ出すことができて、さぞかし安心している所だろう。小保方さん、お疲れ様でした。そして、おめでとうございます。

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腸内細菌で自閉症が治る?

前回の投稿で自閉症に関する本を紹介したが、ついでに自閉症に関して気になる論文を見つけたので紹介したい。

Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders
Cell, Volume 155, Issue 7, 1451-1463, 05 December 2013. 10.1016/j.cell.2013.11.024

「腸内細菌叢が神経発達障害に伴う行動学的・生理学的異常を調節する」
と題され、昨年12月にCellに発表された、まさに最新の論文だ。
うまく出来るかわからないが、解説してみたい。


腸内細菌叢とは
ヒトの腸管(主に大腸)には、細菌が住んでいる。念のため説明すると、ヒトは真核生物かつ多細胞生物であり、ヒトの個体を形成するすべての細胞は母親の体内で生じた1つの受精卵から生じた細胞である。細菌は原核生物かつ単細胞生物である。つまりヒトの細胞とは似ても似つかない、全く異なる生物が体内に常駐していることになる。このような細菌を共生細菌という。ヒトの個体における全細胞数は60兆個と言われているが、腸の共生細菌もそれと同じくらいの細胞数がいると言われており、その細菌群を総称して腸内細菌叢という。ヒトの体には、免疫によって異物を排除する機能があるが、共生細菌はどういうわけかその異物排除機能から逃れ、体内に住み着くことに成功している(ちなみに腸管は皮膚と同じ上皮であり、外界と面していることになるので、厳密な意味での体内とは異なる)。

最近の研究で、腸内細菌とヒト(宿主)との相互作用が免疫機能に重要な役割を果たすということが分かってきた。例えばとある腸内細菌の一種は、宿主に免疫抑制的な免疫細胞を誘導することが分かり、炎症を抑える効果があることが分かっている。このような知見に基づき、健康なヒトの腸内細菌を移植することで、腸炎を抑える治療も行われ始めている。腸内細菌は現在、その他にも臨床応用の可能性を見越して活発に研究がされている分野である。

腸内細菌wiki



自閉症とは
自閉症について詳しく知りたい人はぜひ前回の投稿で紹介した本を読んでみてほしい。簡単に説明すると、他者とのコミュニケーションに支障をきたすような障害であり、先天性の神経発達障害であるとされている。先天性ということは何らかの遺伝子の異常により引き起こされるのだが、まだその原因となる遺伝子は分かっておらず、おそらく複数の遺伝子異常が原因となるだろうと言われている。原因が分からないので、根本的な治療法が無く、自閉症を持つ人はコミュニケーションに困難を抱えたまま生きていかなければならない。

自閉症wiki



これまでその原因が不明だった自閉症だが、一部の自閉症患者で胃腸障害を併発することが知られていた。そのため、近年腸内細菌叢の役割について理解が進んだことを機に、自閉症と腸内細菌叢の関係について注目されていた。このような背景で発表されたのが今回の論文である。

論文の概要としては以下の通りだ。
著者らはマウスが自閉症様の行動を取るMIAモデルを用い、胃腸障害や腸内細菌叢を調べた。すると、MIAモデルのマウスにおいても、ヒトの自閉症患者が示すような胃腸障害を発症しており、健常マウスとは異なる腸内細菌叢を持っていた。そこで著者らは、ヒトの共生細菌の一種であるB.fragilisという細菌をマウスに投与したところ、胃腸障害が軽減し、さらには自閉症様の行動異常も改善された。B.fragilisの投与によって、異常であったMIAモデルのマウス血清中の代謝産物が通常に戻り、これらの代謝産物が行動異常と関わることが分かった。このような知見から、プロバイオティックに胃腸障害を制御することが、あらたな自閉症の治療となるかもしれない。
ASD.png
画像は論文から転載・日本語を追加


自閉症のマウスモデルで胃腸障害・腸内細菌叢の改変が起きることを発見し、そのマウスにとある腸内細菌を投与すると腸内細菌叢が変化し、自閉症様の行動が治ったということである。

この論文ではマウスの行動が変化した直接的な原因として、血清中の代謝産物を挙げている。つまり、腸内細菌の変化によって、血液中の成分が変化し、おそらくその変化が脳に影響を及ぼしてマウスの行動を変化させたのではないかとしている。このことから、ヒトの自閉症でも腸内細菌に操作を加えることで治療効果を得られるかもしれないと著者らは主張している。

しかしながら、この論文に載っているのはあくまでマウスモデルから得られたデータであり、ヒトでも同様の効果が得られるのかというのはこれから調べられるので、自閉症の新規治療法発見!とするのは時期尚早だ。マウスモデルとヒトでは色々と乖離があり、マウスで得られた結果が必ずヒトでも得られるという保証はどこにもない。

これまで原因の分からなかった自閉症について、腸内細菌叢の異常と発達障害という意外なリンクの可能性が浮上してきていることは、自閉症の原因解明に近づく良い兆候かもしれない。今回の発見が直接的に自閉症の治療に繋がるかは全く未知数だが、自閉症の研究が進み、数年後には自閉症の原因の理解がもっと進んでいればいいなと思う。

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あぴと

Author: あぴと
生命科学の研究者。ポスドク。東京という街が好きです。
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